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自己紹介小説「命懸けの自己紹介」

誰も知らず、住む者も無い離れ小島の、断崖絶壁に建つ掘立て小屋で、囚われの身となった俺は、銃を持つ男と対峙していた。

「誰か!誰か助けてくれ!」

力の限りに叫んだその声も、小屋を洗い流さんばかりに押し寄せる荒波の音にかき消された。
相手の男は不敵に笑いながら言った。

「助けを呼んでも無駄だ…ここは地図にも無い絶海の孤島…しかもこの嵐だ…誰も来れやしない…」

黒光りする拳銃を指で弄びながら、その男はさらに言う。

「さあ書け…自己紹介を…死にたくなければな」

身体に食い込む縄の痛みに喘ぎながら、俺は声を振り絞った。

「…自己紹介?…書く?…何故そんなことをしなければならないんだ…」

「それは、自己紹介記事を書かないと「スキ」や「フォロー」がつきにくいし、PV数も伸びにくいからだ」

「「スキ」や「フォロー」や「PV数」…?なんだそれは」

銃を持つ手に力を込め、その男は答えた。

「知らないなら教えてやろう…俺は〔note〕運営事務局から雇われた者だ…お前に自己紹介を書かせるためにな」

「そ、その〔note〕運営事務局とやらに雇われた殺し屋が、何故俺に自己紹介なんか書かせようとするんだ!目的はなんだ!」

「〔note〕運営事務局、通称「公式」は、noteを始めたユーザーに、まずは自己紹介記事を書くことを推奨している…書いた自己紹介記事は、読者に気づいてもらいやすいように〔プロフィール〕として表示するのがコツだ…詳しくは下の動画を参照しろ」

「急にそんな…自己紹介なんて妻にもしたことないのに…」

男はその呟きを聞き逃さなかった。スッ、と俺に銃口を向けて言った。

「悪いが「公式」からは、自己紹介を書かない者は1人残らずこの世から抹殺しろと言われている…なお、見栄を張って嘘を書いた奴も容赦なく殺していいそうだ」

どうやら俺は「公式」から反自己紹介派の疑いをかけられたようだ。

「…わかった!書く!書くから!自己紹介記事を書いてプロフィール記事にするから命だけは助けてくれ…」

観念した俺は、震える手でスマホを取り出し、フリック入力を始めた。

『茨城県生まれの50歳…現在は埼玉県在住…50年もの間、女性にモテたことなど一度もなく、浮いた話が出ることさえもなく、当然結婚の気配すらないまま50歳を迎えたある日突然、就職と結婚を同時にし…』

そこまで書いた瞬間、撃鉄を引く音が「カチリ」と響き渡った。

「…嘘をつけ!茨城出身埼玉在住の男が結婚できるわけがないだろう!」

そう叫び激昂した相手が、引き金を引く指に力を込めたのが見えた。

全部本当のことを書いたのに…。

死を覚悟し目を閉じた瞬間、扉をノックする音が聞こえた。

驚愕の表情と共に、男は銃口を扉へと向けた。

…誰か助けが?しかしこんなところに人が…?

再度ノックの音。

銃を構え、扉へとにじり寄る男。

「…だ、誰だ!誰かいるのか?」

一瞬の静寂のあと、扉の向こうから声がした。

「すいません、◯◯新聞でーす!1ヶ月だけでいいんで新聞とってくれませんかねー?…」

続く


※お詫び:自己紹介小説「命懸けの自己紹介」本文中に「続く」と記述がございましたが、正しくは「続かない」でした。誤った記述がありましたことを深くお詫び申し上げます。

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