【短編】駒場祭雑感#2「大雪崩と窒息と準備中」

井の頭線は私の心の動きにより止まったが、バックアップとしてインターネット上に存在していたアナザー井の頭線(アップロード時の不具合により、駒場東大前にも急行が停車する)が開通したことにより、無事駒場に人がなだれ込み始めた。というか本当になだれが来てしまい、入場ゲートが雪に埋もれて通れない。どうしたものか。

こんなこともあろうかと持参していたシールドマシンで雪を掘り抜き、なんとかわがクラスの飲食物販売屋台(略して、屋台)の会場へと歩きはじめたわたくし(略して、わたし)だが、しばらく道を行くと、なんと文学作品販売屋台(略して、東京大学文学研究会の屋台)があり、そこに私のサークルの友人が、びゅうびゅうと音を立てながらパイプ椅子に鎮座しているではないか。その暴風のような音は彼自身ではなく、商品である『駒場文学』の付録である台風発生マシン「台風発生くん」から発せられている音であった。こんな恐ろしい超小型マシンを作れるとは、恐るべし。彼の文章も載っているらしいのでもとから買おうと思っていたが、怪しいマシンを付録でもらえるときたらこれはもう買うか買わないかしかないだろう。値段をきいたら「500万円だよ!」とお決まりの文句を言われたので、500億円払って無事本を入手。さあ、何を吹き飛ばそう!

石畳のメインストリートの両脇には、無駄にイチョウの木が植えられまくっている。落ちているギンナンの皆様方が我々の鼻腔に対する怨念でもって発する破滅的な薫りの波状攻撃に耐えながら、台風発生くんで壁のように積もった雪を吹き飛ばして進む。
祭期間ということで、駒場Ⅰキャンパスの教室棟は全て撤去され、かわりに平常時の教室棟と全く同じ形、同じ構造をしたお祭りやぐらが多数立ち並んでいた。この事実を知らなければ、さっぱり見分けがつかないことだろう。

私と僕と俺とワイは1人で5号館(を模したやぐら)の裏手にある飲食エリアへ向かった。新型コロナウイルス御中のご高配により、飲食は決まったスペースの中でしかできないことになっている。ここのほかに、学食(を模したやぐら)の近くにももう一つあるのだが、我々のエリアの方はたいそう辺鄙なところにあり、これでは人っ子一人来ないどころか、酸素っ子一原子来なくてみんな窒息しそうな勢いだ。

ところが飲食エリアにたどり着いたとたん、私は衝撃の事実を伝えられることとなる。なんと、「時間が早いので準備中」なのだった。確かに、アフリカでは1分で何千軒ものお店が準備中だというが、まさか日本にも準備中の波が押し寄せていたとは。おのれ、東大総長め!
準備中という概念が発するまた後で来い波に押された私は、しぶしぶ5号館(を模したやぐら)に入り、企画を回って時間をひねりつぶすことにしたのだった。
(続く)



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