『モノローグがうるさい』のはなし
初めまして、深瀬佑と申します。2022/05/01に公開されたSohbanaさん(@Sohbanasick)の『モノローグがうるさい』のMVを制作しました!
「ボカデュオ」というボカロ×歌ってみた×映像・イラストの合作企画に参加しております。
歌唱、MIXはriol.さん(@__riol)、絵と映像は深瀬が担当いたしました。
歌ってみた版・ボカロ版(5/2 18:00に公開予定)ともによろしくお願いします!
恒例のライナーノーツを書いていきます。大変長くなっております。
以下Sohbanaさんとriol.さんに共有していない話が多分に含まれています。ご了承の上お読みください。
今回は依頼ではなく自主制作なので本当に自由にやらせていただきました!
歌詞に「Tok」「フォロー」「タイムライン」といった現代のSNSを明示する単語が出てきますが、これらをそのまま映像にすると数年後明確に古くなるので避けました。
(そういったUIモチーフの扱いが得意でないというのもありますが)
2022年2月に1番までのデモと歌詞をいただいて、そこから主人公の人物像や世界観などを色々膨らませました。
ここから曲全体を通して主人公が室内にずっといるイメージが出来上がります。
ファンタジーまではいかないけど少々現実離れした空間で展開してほしいと思ったので、まず部屋全体のラフをいくつか作りました。
ラフ① バーカウンター的なイメージ。
ラフ② 地下の実験室なイメージ。
ラフ③ 謎の部屋。
最終的に一番最後のラフ③がしっくりきたので、この絵にずっと制作を引っ張ってもらいました。
色味については、最初から色数を絞ろうと思っていたのですんなり決まりました。riol.さんバージョンもサムネイルを制作する都合上、riol.さんを描きやすく且つ私の好きな色を詰め込みました。
次に曲の軸である「コンテンツの消費と提供」について考えを巡らせていきました。
個人的には、コンテンツを消費することは食事の摂取に似ていると定義して今回の制作に臨みました。
観れば観るほど目が肥えるし、昔観たけど大して印象に残らなかったものは忘れてしまうし、一回観たらそこで終わりのインスタントな関係が多い。
気に入ったコンテンツは何度も味わうけどそれでも飽きたら終わりで、高価すぎるコンテンツには手が届かないから知らない作品もたくさんある。
みたいな。
映像内で歌詞をあまり直接的には描かないけれど、付かず離れずの距離を保ちつつモチーフの輪郭から曲の解釈を広げられるような映像を目指しました。
余談ですが、ヒトはどうしたって視覚優位な生き物なので、私が作った映像で曲の訴求力を上げられたらいいなといつも思っています…!
MVってそのためにあると思うので。一枚絵だけじゃ出せない魅力を追い求めていたいです。
最終的なオチとしては、消費者の要望や嗜好に飲まれて主人公が自己を失ってしまう方向に持っていきました。
実は何パターンか映像のオチを考えていて、「大量の灰色の手を信者にして千手観音になる」とか「さらに要望に飲まれた結果、球体関節の位置が入れ替わり完全な人外になる」とか、より過激な案もありました。
Sohbanaさんの視聴者さんがどういう感じを好むのか色々考えて今のオチに落ち着きました。
映像作家の端くれとして人生で一度くらい女の子をバラバラにしなければ、みたいな謎の義務感もあったので実現できて満足です!
今回は色数をあえて絞ったり、影を付けず平面のみで表現したり、フォントを10種類ほど使ってみたり、いつも絶対作る字コンテをやめて最初からVコンテを作ってみたりと、初めての挑戦が多く大変実りのある制作になりました。
制作期間中ずっと楽しかったです!(映像制作が楽しくない時なんてほとんど無いけど)
以降はおまけの細かい話となります。興味のある方はどうぞ。
・歌詞と映像の矛盾について
今回わざと歌詞と映像を部分的に矛盾させています。初見で気が付いた方はいらっしゃるのでしょうか。YouTubeの概要欄などで歌詞を単体で読んでいただければ分かるかもしれません。
具体的には、2番サビの最後「いいから黙っていろ」について、歌詞だけ読むと話者は主人公(=提供者)に見えると思いますが、映像だと明らかに灰色の手(=消費者)が発言しているように表現しています。
これは意図的にミスリードさせています。この曲を映像無しで聴いた時に、映像有りの時と違う解釈に気付いてもらえたら面白いだろうと考えたからです。他にも何か所かあります。
この曲を気に入って購入して、たまたま歌詞をスクロールしながら聴いて、あれ?違和感ある?と思ってもらえたら良いなという考えです。正直そこまで分かってもらえるとはあまり思っていないんですが、期待するのは自由なので自由に期待しています。
映像無しで曲を聴いた時でも、映像が曲に良い影響を与えられないだろうか、と思います。結局映像って曲をもっと聴いてもらうためにあるので、再生回数になるべく貢献できないかと考えて今回はこのような手法になりました。
一粒で二度美味しいみたいなね。
・具体的なシーンの解説
ここではお気に入りのシーンについてああだこうだ書きます。
1番サビ冒頭「うるさい うるさい」
一回目のうるさいでは主人公と花のみにして障害物を無くし、黙ってほしいという主張が通りそうなニュアンスを持たせました。
二回目のうるさいでは額が主人公を切り取るような画角にして、よく騒ぐ輩は一瞬でコンテンツにされるという現代のSNSによくある有り様の暗喩にしてみました。主人公が額の外にはみ出さないよう意図的に配置してあります。
2番Aメロ「丙「吐く言葉も吸う煙も全部見ていたい」」
この歌詞、シンプルに気持ち悪くて好きです!陰湿なネットストーカーの芳醇な香りに満ちていて、そのイメージにぴったりのフォントをたまたま見つけられて運命みたいでした。
アウトロのクレジット部分
クレジットはイントロにも存在するんですが、同じ画面でも映像を観る前と後で印象が変わるように作ったつもりです。
イントロではただクレジットが見やすい位置に表示されているだけに見えるかもしれません。しかし曲を全編聴いた後のアウトロでは、私とSohbanaさんの名前が皿に載っていることで「これを作った人間も消費される立場にある」ことを表現したくて。
イントロとアウトロ両方にクレジットを入れる演出は尺稼ぎっぽくて好きでなく、普段はやらないのですが、今回は演出意図があって導入しました。地味だけど気に入っています。
・結局この曲って何?
本当に独断と偏見で書いているのでこの解釈ばかりが正しいと思ってほしくないのですが、この曲にはSohbanaさんが最近考えていることがたくさん詰まっていると解釈しています。
Sohbanaさんの曲ってどれも内向的で、自分の内面と向き合ってじっくり丁寧に描写している曲が多いと感じます。
新曲の『雨は実刑』や『月が遠いですね。』でも如実だと思います。「幸せでも寂しくあれる人」というか。なんというか。
なので制作中は「モノローグがうるさい」だけでなく過去曲も繰り返し聴いて、Sohbanaさんが「過去に何を思っていたか」「今どう思っているか」「今後どうなりたいのか」といったことに思いを馳せていました。
今回に限らず、自分が映像を作る時は作曲者に恋をするような心持ちで励んでいます。本当に恋をするわけではないんだけど、尊重して慈しんで心の中で愛を注ぐようなイメージです。色々考える時間がかかる分制作ペースは遅めだけど、特別な一点物に出来る気がしています。
だから今回も、丁寧な解釈や暗喩で私なりのアンサーを出したいな、みたいな感情があって、こんなのエゴでしか無いんですけど、自主制作の原動力はエゴ以外有り得ないので問題ないです。気持ち悪いクリエイターだけど元気に生きています!
最後に限定公開でVコンテを載せておきます。2022/03/01に書き出したもので、この時からやりたいことが全部固まっていたように思います。
権利の関係上、音無しになっているので補完しながら観てください。
そんなこんなで長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。またSohbanaさんやriol.さんと一緒に何か作れたらいいなあと思います。
深瀬佑でした。
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