かわいそうなボブ

 ボブは惑星シリウスβに到着してから、ユニヴァース・ステーションのゴービースタンドで、2時間と23分も翻訳機をいじくり回していた。本日のプレミアムゴービー(炭素型生物分類29用)はすっかり脱水素化してベチャベチャだ。

 人間の技術に対して宇宙基本言語は難解すぎた。それは音波ではなく重力波として伝達される。高等生物の体内や小さな翻訳機、看板――の役割をする任意の空間N――から発せられる指向性重力波を受信し、さらに文法――名詞も動詞も形容詞もない、ある種の主観的イメージの直接伝達と、小刻みなタップダンス的跳躍を足して二で割ったような何か――の複雑なルールを解きほぐす必要がある。

 ボブの横を通り過ぎるタコやらナメクジやら甲殻類(※差別的比喩)みたいな異星人達は時々立ち止まる。「かわいそうな文明後進生物さん。手伝いましょうか」あるいは「あ~、見てみ、低級生物はステーション内に入れるべじゃないよなぁ」などと言っていることは、見るだけで分かる。
一方でギャラクティック・アップル社製の翻訳機は煙を上げ始めた。 

#逆噴射プラクティス #小説

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