食人戦記

 昔、一人の狩人が鳥と見紛い天使を射殺した。狩人は狼狽して遺体を河に投げ捨てた。その夜、生まれるはずだったの救世主は生まれなかった。

 天使の死骸は下流の城塞都市に流れ着いた。原型留めないほどに腐敗した天使は、汚物とともに水路に沈んだ。

 その年の冬、都市に奇妙な疫病が流行した。病人は七日間の高熱に苦しみ、回復後、生の人肉以外の食物を一切受け付けなくなった。疫病は人から人へ、街から街へと広まった。親は子を、子は親を食らった。市場で公然と人肉が売買された。

 戦争が起きた。領土や富を求めての戦ではない。純粋に、食料を求めての争いが生まれ、戦場は饗宴の場となった。

 月夜、トランシルヴァニアの古びた要塞聖堂に、三人の領主が集まった。
「男一人を捌けば、40人分の食事になる。要は、18年かけて育てた家畜が40日分の食事にしかならぬということだ。すぐに尽きる。移動狩猟民族へと還る他はあるまい。西へ、豊かな西の国々へ……」

【続く】

#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

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