魔の山(1)

 2019年3月31日、午後12時30分。国会議事堂にほど近いエリアの駐車場や空き地、ビル屋上、公園、民家、あるいは路肩から、149機のドローンが一斉に飛び立った。それには小さなトイドローンから農業用の大型ドローンまでが含まれる。それぞれが一様に、爆発物、ないしガソリンとスチロールを混合した簡易ナパーム弾を積んでいた。
 とあるコインパーキングの監視カメラは1台の大型バンを記録していた。バンが駐車場に入り、停まり、運転手がバックドアを開けるまで約1分。その作業服の男が折り畳まれた農業用大型ドローンを降ろし、展開するまで更に2分。バンが再び発車すると同時にドローンが飛び立つ。カメラに車が映っている時間は4分13秒だった。のちに判明したのだが、大型ドローンは最大積載35キロ、継続飛行可能時間100分、形状はマルチコプターに近く、およそ30kgのプラスティック爆弾C-4を載せ、自動制御のもと国会議事堂を爆撃した。
 他のドローンも非常に似た形で運用されていた。軽トラックの背から飛び立ったもの、徒歩で公園に持ち込まれたもの、あらかじめビル屋上に設置されていたものなど、すべて自動制御により国会議事堂と、その側、皇居を攻撃した。うち、爆発物は国会議事堂に、ナパームは皇居、宮内庁に集中した。また数機、有機リン系ガスを撒いたものもあったが、これは一般に入手が容易な農薬、リン系殺虫剤だった。化学テロを偽装し現場を混乱させることが目的であったと思われる。犯行声明は出なかった。
 4月に予定されていた新元号の発表は保留され、平成が続くこととなった。このテロの日はその後の社会の命運を分ける分岐点であった。声を上げず、顔も出さず、名前も目的も分からない、幻のようなテロ組織に、人々が怯えて暮らす日々が始まったのである。

 2019年3月31日、午後13時。少数の人間がSNSを通じて議事堂付近の混乱を知った頃、千葉県と大阪府の大型テーマパークにもドローンが出現した。これらはパーク付近の路上、十数台のトレーラーから発進した。機体は派手な色に塗られ、キャラクターが描かれていた。宅配用中型ドローンが大半であり、金紙や銀紙など目立つ包装を施されたダンボール箱を積んでいた。中身はBGMを大音量で再生する小型のミュージックプレイヤーと、手製の榴弾もしくは簡易焼夷弾だった。箱は全エリアでほぼ同時に落下し、3分の後に爆発するように設計されていた。箱を中心に人が集まった頃合いに爆発したために、被害者数は多かった。

 2019年3月31日、午後13時30分。47都道府県の各地の駅で、爆発が発生した。旅行用キャリーケースに有臭ブタンのボンベとガソリン、発火装置が仕込まれた爆弾が使用された。装置の隙間には金属片が詰め込まれており、破片効果による殺傷が意図されていた。


(まだまだ続く)

#逆噴射プラクティス

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