ひとさし指クラブ

 1985年から1989年にかけ、全国の大学生の間である行為が流行した。
 
 3人から5人の集団で電車に乗り込み、比較的乗客が少ない車両で標的を1人定め近づく。そして次の停車駅まで3分を切る頃、学生達は笑い始める。最初は声を殺した忍び笑い。時折、標的の方にチラチラと目をやりながら笑いを堪える。

 続いて口を覆ってクスクスと笑う。この段階で大半の標的は自分が笑われていると気がつく。ある人は動揺し、顔を赤らめ、汗をかき、身なりに異常がないか確かめる。

 停車まで残り30秒、学生達は全員、標的を指さして嘲笑を爆発させる。ひとしきり笑った後、彼らは電車を降り、大抵は飽きて別の遊びを探す。

 人ひとりを困惑させるには嘲笑だけで十分である。時には繊細な心をへし折った。社交不安障害の発症要因となる事もあった。だが学生らの行為は基本的に法には抵触しなかった。

20年後、私はヤクザを通してこの行為の発案者に賞金をかけた。3億円。資産のすべてを。

【続く】

#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

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