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花留多唄【り】りんどう

 13歳まで山形で育った私ですが、そこでの思い出は実に美化されているんじゃないかと思う今日この頃。記憶が曖昧なので、実際はもっと「こんなものか」ってことでも美しく見えたり、大きく見えたことがたくさんあるような気がします。

 その中の一つが園芸店。
 祖父の家から程近く、バイパス沿いに園芸店がありました。山野草や苗が敷地いっぱいに並べられているのです。

 母は祖父の家に行くたびにそこへ連れて行ってくれたのですが、はっきり言って彼女が何を買っていたかすら憶えていません。

 なのに、そこにあったリンドウの花だけはしっかり目に焼きついています。

 小さな苗でした。2つか3つの釣鐘状の紫の花が咲いていて。あの凛とした姿に心を奪われ、私はじっと見入っていました。

 ところが、何故か母に「欲しい」と言えず、園芸店に行くたびに見つめるだけ。結局、買うことはありませんでした。

 何故、ねだることができなかったのか。なんだか、自分のものにならないような気がしたからです。自分の手に負えない気がしたんですよね。

 もし、我が家の庭先にリンドウを植えていたら、叱られて外に追い出されたときにでもその花のそばでうずくまってふくれっ面をしていたかもしれませんねぇ。

 リンドウの花言葉は『正義』『誠実』『苦悩』『貞淑』『愛らしい』などありますが、そのほかにも『悲しんでいるあなたを慰めたい』『あなたの悲しみに寄り添う』というものがあります。映画『野菊の墓』では嫁入りする女の子に、思い合っていた男の子がリンドウを差し出していました。あの切ない別れの場面を思い出してしまう花言葉です。

文字札:凛々しい横顔


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