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井上志摩夫全集「稲妻駕籠」を読んだ。

 色川武大の別名、井上志摩夫。全集の第5巻「稲妻駕籠」は女の情念と怪異をテーマにした作品集だ。「わらう妖姫」「夜嵐艶草紙」「生疵小町」「毒婦誕生」「吉原百人斬り」「果てなき旅」「生首城呪文」「稲妻駕籠」の8編を収録。
 表題作の「綱妻駕籠」は護持院ヶ原を舞台に展開する怪異譚で、ひどく恐ろしい。松と権の駕籠かきが、頭から血を流した女性を駕籠に乗せるところから話が始まり、松の「――あああ、人並みの暮らしがしてえなア」という小さな欲望が裏切りと悪夢を呼び寄せる。身につまされてしまうのである。
 「生首城呪文」は怪異のように見えてじつは怪異ではなかったという物語だ。山中鹿之助を題材にとった一作。死後も鹿之助による復讐が続き、怨霊の復讐かと思われたが、残された妻と部下たちの仕業だと判明する。
 「わらう妖姫」や「夜嵐艶草紙」「毒婦誕生」は女性の恐ろしさを描いた短篇。全体を通して、女性不信に陥りそうな話が並んでいる。
 第5巻は配本が少なかったらしく、Amazonでは10万円の値段がついている。

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