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山田正紀の書き下ろしSF「戦争獣戦争」を読んだ。

 東京創元社からの書き下ろし。
 「想像できないことを想像する」という信条そのままの大長編。御年69歳とはとても思えない。
 戦争獣とは戦争によって増大するエントロピーを喰らう巨大情報構築体である。争う2頭の戦争獣〈黄帝〉と〈蚩尤〉は原爆投下の瞬間に生まれた。本書が扱うのはそれ以降の戦争、朝鮮戦争やベトナム戦争、そして北朝鮮の核軍事施設だ。
 何人かの異人(ホカヒビト)が視点人物として描かれる。異人には個別の刺青がある。この刺青は一種の寄生虫のようなもので、独立した存在である。簡略にいえば、これは異人、刺青獣、戦争獣の関係を描く小説だ。
 人類の負のエントロピーとその解消方法としての戦争がテーマとなっている。「戦争とは、それを四次元高時空域座標のミクロな観点から見れば、人類、それにその文明に蓄積された負のエントロピーを一気に大量に、清算するものでしかない。」という。
 最後はSF感が剥き出しで、非常に抽象度が高く、頭がくらくらする。「いま」という時間感覚が融解していく感触が素晴らしい。

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