マンガ体験の原点。「ひかり書房」と「花咲く乙女たちのキンピラゴボウ」

 私は兵庫県伊丹市で生まれ育った。阪急伊丹駅の駅前の細い路地の奥に「ひかり書房」という貸本屋があった。私立の中学に行った私は毎日電車通学するようになり、ひかり書房を発見した。
 夢のような空間だった。サッシの扉を開けると、マンガがぎっしりと並ぶ棚があった。壁際もぜんぶマンガだった。1冊50円くらいで貸してもらえた気がする。手塚治虫の「ブラックジャック」などを枕元に積み上げ、夜を過ごすのが至福の時だった。手塚治虫に「きりひと賛歌」などの大人ものがあるのを知ったのもひかり書房のおかげだった。
 私はちばてつやの「のたり松太郎」や横山光輝の「三国志」といった大長編マンガが好きだったが、こうした物語が読めたのも貸本屋があったおかげである。
 そうしてマンガを読み継いでいるとき、橋本治の「花咲く乙女たちのキンピラゴボウ」が出版された。高い本だったがこれは買った。花の24年組と呼ばれる少女マンガ作家たちのことを知ったのはこの時。私はまたひかり書房に入り浸り、大島弓子や倉多江美を読んだのだった。

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