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岡田睦「明日なき身」を読んだ。

 私小説の極北。とか言えるほど私小説を読んでいないわけだけど、それでも言いたくなる短篇集。「ムスカリ」「ぼくの日常」「明日なき身」「火」「灯」の5本を収録。
 作者は1960年(私の生まれた年だ!)に「夏休みの配当」という作品で芥川賞候補になったが、売れることなく終わった。ゴーストライターや無署名記事で食いつないだらしい。3度目の妻との離婚の後、生活に困窮し生活保護を受けた。「群像」2010年3月号に「灯」を発表後、消息不明となる。
 最初の「ムスカリ」は、セイホを受けながら、狭いアパートに暮らす姿が細密に描かれている。「ぼくの日常」は断片的な文章が連鎖していく日記的な文章。「このこと、いずれ」と記して、あとで解説する独自の文体。表題作は離婚の顛末と下流老人の生活を描いている。「火」はショッキング。冬、鼻をかんだティッシュに火をつけ暖を取ろうとし、アパートの部屋を焼失させてしまう。最後の住まいを失った著者は貧困ビジネスにハマって孤立を深めていく。
 病気と餓えと孤独を強烈に感じた。

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