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井上志摩夫全集「切腹」を読んだ。

 井上志摩夫は、色川武大のペンネームである。順番的には井上志摩夫、阿佐田哲也となる。
 主に時代小説を書いていたようだ。年代的には昭和30年から36年。博打打ちから足を洗い、編集小僧となり、あちこちにできたツテで書き始めたという経緯。
 生前はまったく忘れ去られていたが、双葉社の倉庫から古い原稿が発掘され、死後、井上志摩夫全集(5巻)が刊行された。
 その1巻目が「切腹」。侍をテーマにした短篇が6つ集められている。若書きといってもそこは色川武大、えっと目を剥くような完成度である。表題は「切腹競争」という短篇からとられたものだろう。
 「将軍他出のおりの警護役、つまり御徒の士のうち半数三組九十人が一挙に永のお暇を頂戴した」という設定で、命を下したのは老中、堀田相模守正亮。なんとか復職したい面々は知恵者の発案で、老中の前で腹切するという案を創出する。くじ引きでメンバーを決めるが、それぞれの思惑で三人ずつ腹切していくという案は瓦解していく。多少のドタバタ風味がありつつ、哀愁を漂わせる名作。

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