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「恐婚」を読んだ。

 「離婚」の続編である「恐婚」を再読した。
 「恐婚」は「虚婚」「雑婚」「連婚」「風婚」「恐婚」の5編からなる連作集だ。
 「離婚」も「恐婚」も、ですます体で書かれている。これは色川作品としては珍しい。
 たとえば、「すみ子は私の元の女房で、離婚後もしばらく一緒に暮らしていたのですが、この頃はやっと男をみつけてそのマンションに移っているのです。」といった調子だ。
 「私」といいながら、実寸大の私とはズラしてますよという宣言のように読めた。作品中の「私」は週刊誌などに原稿を書き飛ばしている実話ライターだという設定になっている。
 実際の色川武大は、中学を中退後、アウトロー生活ののち、各種業界紙を転々と渡り歩き、1953年に桃園書房に入社、55年に退社してからは、井上志摩夫名義での娯楽小説を書く生活に入っている。61年には「黒い布」で中央公論新人賞を受賞。69年には「麻雀放浪記」で大ヒットを飛ばす。このあたりの文学的経緯は本シリーズではすっかり省かれている。孝子と暮らし始めたのは70年頃だ。

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