プールを歩くひとびと。

 毎日のように温水プールに通っていると、ああ、常連さんだなという人たちがわかってくる。とくに朝の時間帯。午前9時頃に行くと、ほぼ、常連さんしかいない。
 温水プールは通常、歩行コース、自由遊泳コース、水泳往復コースの3区画に分かれている。
 朝の常連さんたちで、とくに目立つのは喋るおばさんたちだ。横に広がって、嫁の話や近所の噂話を延々としている。かなり迷惑なのだけど、たしなめる人はいない。
 ナンパおじいさんもいる。女性とみたら、どんな年齢容姿であろうと絶対に声をかけて喋り込む。ちょっと猫に似た感じの人だ。私は苦手。
 しかし、この間、もっとすごい人に出くわした。プールから上がると、着替えてチケット渡すのだが、そのおじいさんはいきなり「いまは夜だよなっ」と叫んだのだ。真っ昼間である。「夜だよなっ」。係の人は曖昧に頷いている。「夜は疲れるよなっ」そのあとも延々とどうでもいいことを話し続けた。後ろの人がチケットを置いていっても、ぜんぜん動じない。まるで喋り続けないと死ぬ病気のようだった。

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