見出し画像

【ショートショート】株主優待

 親父が亡くなって、遺産相続で有価証券を受け取った。つまり、株券である。調べてみると、日本の軍需産業の銘柄だった。親父、えげつないものを買っていたんだなあ。
 残された家屋の整理をしていると、奥まった部屋になにやら機械の塊があった。
 ロボットの一部?
 怪しいが、捨てるわけにもいかず、私はその塊を自分の家に持ち帰った。
 親父宛の郵便物を私宛に変更しておいたら、ある日、その軍需企業から箱が郵送されてきた。
「ははあ。これが株主優待というやつか」
 箱を開けてみる。中身は機械のパーツだ。
 私はさっそく機械の塊と付き合わせてみた。どうも腰の一部らしい。ぴったりと合う。
 緊急に株を手放すような事態にも見舞われず、五年ほど放置しておいたら、機械の塊がだんだんロボットっぽくなってきた。
 十年後、最後に届いたパーツはエネルギー供給部分である。
 かちっとはめ込むと、ロボットの前面が開いた。なかに入って操縦するタイプのやつだな。
 ちょうど金曜日だった。
 会社が引けてからロボットの中に入ってみた。ハッチが閉まり、ロボットは自動的に歩き出した。
「おいおい。どこに行くんだよ」
 やはり戦闘ロボットであったらしい。ロボットが向かった先は台湾だった。中国とアメリカがバチバチ火花を散らしている紛争地域である。
「あー、ヤバいヤバい」
 実物の戦争だ。
 ミリタリーマニアには夢かもしれないが、私には悪夢だ。第一会社にどう言い訳するのだ。
「ちょっと戦争に行ってきます」
 というのか。そんな私の思惑とは関係なく、ロボットは中国軍に向かって突き進んでいった。
「わーっ」
 私は気を失った。
 月曜日の朝には、日本の我が家にいた。ロボットはかなり損傷が大きく、右腕がもげている。激烈な戦闘があったらしい。
 私はロボットから出て、会社に出勤した。

(了)

目次

ここから先は

0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

この記事が参加している募集

眠れない夜に

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。