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井上志摩夫全集「名無しの恋兵衛」を読んだ。

 井上志摩夫全集第3巻「名無しの恋兵衛」。収録作は「逃げろや逃げろ」「押しくらまんじゅう」「江戸の休日」「命が一つ星三つ」「暁の鐘が鳴る」「ものぐさ物語」「お江戸ホルモン伝」「俺は江戸っ子」の8編。お江戸コメディである。最初の4作がシリーズで、こんな冒頭で始まる。
「俺、見てのとおりの素浪人、名前はない。名無しの恋兵衛とご承知おきねがいたい。」
 恋兵衛、出世にも金にも女にも興味なし。ただ真っ正直に生きたいだけなのに、やっかいごとに巻き込まれていく。
 井上志摩夫の時代小説は現代のテーマがダイレクトに反映されているところが面白い。
「銭がなければ少しも面白いことはないのである。だから皆が、銭欲しさに血まなこになっている。銭のためには、自分の健康も、道徳も、人間としての誇りも、何もかも犠牲にする。生きるということは、銭をかせぐことであるらしい。」
 恋兵衛は江戸はむなしいと言っているのだが、東京もむなしいままだなぁ。
「暁の鐘が鳴る」は短小とシンデレラストーリーを組み合わせていて可笑しい。

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