落語と私。桂枝雀をライブで観なかった自分が恨めしい。

 若い頃のある日。私は昼間からごろごろしながらテレビで昔の映画を眺めていた。
 「色ごと師春団治」という1965年公開の映画である。マキノ雅弘監督作品で、主演の桂春団治役を藤山寛美がつとめていた。私はいつの間にか引き込まれ、最後にはわんわん泣いていた。なにがそんなに私の感情を揺さぶったのかいまでは定かではないが、臨終のあと力車に乗って去って行く最後の場面はよく覚えている。
 落語家という存在を強烈に印象づけた映画であった。
 若いとき、私は関西に住んでいて、爆笑王「桂枝雀」の名前はよく知っていた。SF専門誌「奇想天外」に森卓也が「SRとSFの間」という記事を書いていた記憶がある。ちなみにSRとはショート落語の略で、桂枝雀が枕で喋っていたネタのことである。
 1980年代といえば、桂枝雀が大活躍していた時代である。なんで生で見ておかなかったかなあ。お金がなかったからだと思うのだが、もったいないことをした。大反省して、いまは柳家喬太郎春風亭一之輔をなるべく聴いておこうと思う次第である。

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