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「義民が駆ける」を読んだ。

 藤沢周平の長編「義民が駆ける」を読んだ。史実をもとにした歴史小説である。
・会話で庄内藩のお国訛りが出てくる
・昔の手紙のやりとりが出てくる
・登場人物が多い
 という三つの意味で、読み継ぐのがハードだった。
 貧乏な川越藩が大奥を通じて前将軍に働きかけ、豊かな庄内藩とのお国替えを画策する。この陰謀をいかに阻止するかというのが、この小説の眼目だ。幕閣を牛耳る老中水野忠邦は、庄内藩の藩主に対してあまりいい気持ちを抱いておらず、この計画は、三方お国替えという形をとって実現することになる。
 侍は表だって幕府に刃向かうことはできない。そこで、百姓たちが自主的に動き出す。かれらはなにをしたのか、どうして動こうとしたのか。かれらは旗印に「二君に仕えず」と書いたという。百姓が忠義というのはおかしいだろうと作者は思っていたが、よく調べてみると、そこに独自の建設的虚飾が見えてきたという。
 多面的な視点で描かれるので、物語に奥行きがある。実話でありながら、波瀾万丈なお話を楽しむことができた。労作である。

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