ディスタンス by星空

 「わたし、人との距離感がわからなくて…よそよそしかったり、ぶつかり過ぎちゃうことがよくあるかもしれないけど…こんなわたしで良かったら、よろしくお願いします」


 「付き合ってください」というあまりにもベタでなんの捻りもない僕の告白を彼女は笑顔で受け入れてくれた。


 その後の生活はというと、内容もないのに長電話したり、二人並んで下校したり、休日一緒にデートしたりと毎日が夏休みのように明るい気分でいられる。ただ、言ってた通り、彼女は人との距離感がわからない人だった。


 例えば先日のデート。共通の趣味、バスケ観戦に行った時の出来事。試合中、僕らが応援するチームが土壇場で逆転し、サポーターの盛り上がった叫び声が会場に轟いた。もちろん僕と彼女も例に漏れず、大興奮の最中にいた。感情が高ぶっていたので、細かいことは記憶にないけど、隣に座っていた彼女とハイタッチをする流れに自然になった。僕が片手を顔の高さに構えると、彼女がリズミカルに手を突き出すのが見えた。後は軽く力を込めて互いの手を叩き合えば良いはずだったが、次の瞬間、僕は平手打ちをされた。

 必死に謝る彼女曰く、「距離感を間違えて、力を入れるタイミングをミスったので、顔を叩いてしまった」とのことらしい。

 そういえば、その日の集合時、僕らは近くの駅で待ち合わせる事にしていた。時間ギリギリになっても彼女の姿は見えず、駅舎を出て、大通り沿いに立っていた。一分ほど経つと彼女が道の方から軽く腕を振りながら小走りで近づいてくるのが見えた。「お待たせ〜」と息の上がった声が聞こえた次の時には全身に強い衝撃を感じた。

 痛がる僕を慌てた様子で心配していた彼女曰く、「距離感を間違えて、減速するタイミングを誤ったので、僕に激突してしまった」とのことらしい。

 あと、この間彼女の家に招かれた時、彼女は紅茶を淹れてくれた。落ち着く香りのお茶が入ったマグカップを手渡されたので手を伸ばしたところ、気付くと紅茶はテーブルに飛び散り、太ももに灼熱の刺激が走った。

 あたふたしながらティッシュでテーブルを拭いていた彼女曰く、「距離感を間違えて、マグカップを離すタイミングを早めてしまったので、落としてしまった」とのことらしい。


 まあ、そういうハプニングも含めて、僕は日常を最高にエンジョイしている。

 (バスケの時、グータッチじゃなくて良かった…)





あとがき

 おはようございます。深志文學の星空です。

 今回の物語は「距離感(物理)がわからない」って話です。余談ですが、少し実体験を含んでいて、ハイタッチしようとして、人を叩いたことがあります。のれんに腕押ししたかのように力が逃げて制御が利かなくなり勢いのままに、といった感じで。その時は、相手は当然ながら訳わからないし、自分も何をやらかしたのか訳わからず焦りました。状況を説明したら、彼は笑い飛ばしてくれました。優しい。

 では。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?