古城(三)by五森

やがて外れの方まで来てしまった。堀に橋が架かり、そこで内堀と外堀が分かたれている。その傍らに、他の堀からは独立した、一見すると池のような水場があった。おそらくは分離された堀だろう。鳥の姿はなく、水草と、鯉が一匹居るばかりだ。半券は近くの植え込みの陰に落ちて、堀に浮かぶのは免れた。私は屈んでそれを拾うと、向こうから歩いてくる友人に駆けて行った。
「見つかる前に早く戻ろう」
友人はやけに焦れた様子で言った。
しかし既に遅かったようで、門衛がこちらへにじり寄ってくるのに気がついた。既に抜刀している。刃は、おそらく古城を反射しているのだろう、鈍く光った。
門衛が駆け出したのに少し遅れて、私たちも走った。砂利が蹴散らされていくつか飛んだ。先ほどまで走って疲れていた私と、友人との距離は既にかなり開いている。振り返ると、門衛が刀を振りかぶって斬りつけようとしているところで、私は思わず目を閉じた。そのとき、空から降ってくる音があって、それから門衛が呻きだした。目を開くと、鳶に門衛が襲われていた。鳶は執拗に、門衛の髷に爪を食い込ませ、引き抜こうとしているようだった。門衛はとうに刀を取り落として、鳶を剥がそうとしたが、手をつつかれて叶わなかった。
友人も気がついて戻って来た。私たちは、襲われている門衛を見ながら息を整えた。門衛の髷は強く引っ張られて所々抜け落ちて、周りが赤くなっていた。
内堀から、先ほどの鴨が顔を出して言った。

「鼠に見えたんだろうな」

私たちは正門から出た。何も話す気になれず、駅まで無言で歩いた。途中振り返ると、北西の山に雪が積もっているのが見えた。冬が来るのだろう。山の名を、私は知らなかった。

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