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山上の説教

久しぶりに地元の山に登った。

小学校の遠足で登って以来だから、20年ぶりか。


古い記憶を頼りに、多少不安になりながらも、登っていく。
山が小さく感じる。子供のころはもっと大きく感じたのに。


1時間ほどで山頂に着いた。
山頂は街が見渡せる360度のパノラマ展望だ。

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その壮大な景色に先客がひとり。

若い女性だ。

「こんにちは。」と声をかけると、
「こんにちは。」と応えて、こちらを黙って見ている。


「変わってないね。星原君。」

「あれ?もしかして、マイコ?」

「久しぶりね。」 

「たしかアフガンで…」

「そう。国連職員として働いてたの。」 


丸太のベンチに腰を下ろして思い出を語り始める。


「そうだったんだ。そういえば卒業してから一度も会ってなかったね。」

「そうだね。そっちは?元気してた?」


マイコ。それは最強のパートナー。


相変わらず平凡な毎日さ。
と、見栄を張りたかったが、
書けない日々が続いていた。はずかしい。


「君はすごいよ。バリバリのキャリアだったし。」

「私には使命があったからね。
戦争を終わらせ、平和な社会をつくるという使命が。」

「そうか。すごいなぁ。時々思うんだよなぁ。
はたして僕は社会的に価値があるのかって。」


マイコが鼻で笑った。


「変わってないね。その弱々しい話し方。
世界でいろんな問題にかかわっているとね、時々自分の悩みなんて、どうでもよく思うことがあるよ。
ゴミみたいなもんだよ。生きてるってとっても大事なんだって思うこともたくさんあるしね。」


「そうかな?」


「人は死んでしまったら、こんな美しい景色だって見れないからね。」



風が吹いている。

しばらく眺めていた景色も変わってきた。


「そろそろ、行くね。最後に会えてよかった。」

「僕も。僕も何か見つけてみようと思う。」

「楽しみにしてる。」

「ありがとう。」


彼女は振り向いて、
黄金に輝く草原の中を歩いて行った。


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帰り道に彼岸花を見つけた。


「よし。」


彼女の墓参りをして帰ろう。


星原道尾
真夜中の文学同窓会 第2回作品

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