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コレクタブル投資におけるポートフォリオ

ポートフォリオとコレクション

 私は、コレクタブル資産の収集を投資の一環として取り組んでいます。投資である以上、運用する資金が増えることを期待して行うわけですが、投資には当然ながらリスクが伴います。運用する資金が大きくなればなるほど、資金を増やすための「攻め」だけではなく、不測の事態に直面しても極力資産を減らさないという「守り」も重要になります。
 投資の世界では、「卵は一つのカゴに盛るな」という有名な格言があります。これは、性格の異なる複数の投資商品に資金を分散させよ、という意味です。
どんな商品にいくら資金を振り当てるか、それを決めることをポートフォリオと表現します。私が株式投資で大半の資金を運用していた頃は、セクターや業種を分散させて、下げ相場の時にも損失をできるだけ抑えるような努力を色々と試みましたが、○○ショックと呼ばれるような激震に見舞われると、リスクヘッジとしてどこまで有効なのか疑問に感じたことも何度がありました。株式だけに依存する限り、いくら業種やセクターを分散させても、結局は同じカゴにすべての卵を盛っていることになりかねないという気がします。
 そこで私は、株式投資で運用していた資金の一部を、金融市場や実体経済に連動しにくい現物資産にシフトすることを決めました。その第一弾として、2021年からアンティークコインの購入を始めました。現物資産に投資するなら、保有することが楽しめて収集が長続きするコレクタブル資産と決めていましたが、数多いコレクタブル資産の中から、値動きが安定していて価格が下がりにくいアンティークコインを対象に選びました
 アンティークコインは、私の好奇心を駆り立ててくれる非常に魅力的なコレクタブル資産でした。アンティークコインを自分の方針に沿って集めることに、徐々にのめり込んで行きました。アンティークコインは、すでに価値基準が確立されており、極端な値上がりは期待できない一方で、大きく値下がりするリスクは少ないと感じていたため、アンティークコインにまとまった資金を投じることにたいして不安もありませんでした。好きなコインを集めることに熱中しているうちに資産価値が徐々に高まっていく、これがコレクタブル資産の真骨頂だと思っています。
 しかしながら、アンティークコインに投じる資金量が増えていくにつれ、自分が収集対象にしているコインは、アンティークコイン市場全体で見るとかなり偏ってしまっていることが気になりだしました。株式投資で例えれば、ハイテクセクターに属する銘柄ばかりを買っているようなイメージです。もともとは、運用資金が株式に偏ることを避けるため、現物資産であるアンティークコインに資金の一部をシフトすることにしたのですが、リスクヘッジが目的であるなら、アンティークコインというか、コレクタブル資産においても投資対象を分散をすべきではないのか、と思い至ったのです。
 コレクタブルというのは、自分の好きなモノを集めてコレクションを作るものだと理解しています。個人的な好みはどうしても一極集中というか、似たようなもので構成されます。コレクションを考える過程において、リスクヘッジという概念は入り込む余地がありません。つまり、コレクションとポートフォリオとは対極の存在とも言えるのです。
 趣味で集めるならコレクションに徹すればいいのですが、投資を意識するなら、ポートフォリオを組む戦略も必要なのではないか。そう考えた私は、アンティークコインでポートフォリオを組むにはどうすればいいかを模索してみました。私が収集対象にしているのは、19世紀のイギリス銀貨です。分散を考えるのであれば、国、年代、素材が異なるコインに収集範囲を広げることになります。たとえば、古代コインに属するリディア王国のステーター金貨であれば、私の収集対象とはすべての要素で異なりますから、ある程度はリスクヘッジとして機能するかもしれません。
 理屈ではわかるのですが、正直なところ、今から古代コインに関する知識を一から習得するのは気が遠くなります。私が集めている19世紀のイギリス銀貨も、古代リディア王国の金貨も、一般の人からはどちらも同じような「古いコイン」でしょうが、古代コインの収集を始めるには、まったく別のコレクタブル資産を始めるのと同じくらいのハードルがあるように感じられます。
 古代コインを投資対象に加えることで、本当にリスク分散になるのかという懸念も残ります。それなら、いっそのこと別のコレクタブル資産に分散させた方がいいんじゃないか、と思ったことも、私がアニメ原画を本格的に投資対象にすることにしたきっかけにもなっています。

性質の異なるコレクタブル資産を組み合わせる

 自画自賛に聞こえてしまうかもしれませんが、コレクタブル資産を大きな一つの投資商品と考えると、アンティークコインとアニメ原画に分散させることは理にかなっているんじゃないかなと思っています。
 第一の理由は、お互いの市場の参加者がほとんど重なっておらず、値動きに相関性がないことです。同じような値動きをするものは、分散する対象には適しません。その点、アンティークコインとアニメ原画は異なる要因や事情で相場が動いています。
 第二に、価格帯が明確に異なることです。私が投資対象にしているのは19世紀の銀貨なので、アンティークコイン全体では価格帯は低めのものに属しますが、それでもボリュームゾーンは1枚200万円から500万円くらいになります。アニメ原画は、宮崎駿さんの直筆レイアウトのように1枚で1000万円以上の値が付くものもありますが、私が将来有望と見て購入しているものは、だいたい1カット1万円から上は30万円くらいまでです。
 価格帯の違いは、言い換えればコレクタブル資産としての認知度や市場の成熟度の違いです。アンティークコインは収集家人口が多く、レアコインの売買履歴も広く共有されているので、みんなが欲しがる珍しいコインはすでに高値になっています。一方、アニメ原画は「オタクの趣味であり資産価値はない」と思っている人が大半なので、現時点でも非常に安く入手できます。アニメ原画は、収集人口が思ったより増えなければ価値が上がらないリスクがあるものの、アニメ作画を示す資料的価値、歴史的価値が評価されるようになれば、将来大化けする可能性を秘めています。
 第三は、日本のアニメ作品の原画については、海外で人気が高まっているものの、現時点では日本国内の方が入手しやすいという有利な状況にあることです。コレクタブル資産としてよく取り上げられるメジャーな商品の多くは、海外で生まれて海外で評価が確立して、それが日本に輸入されたモノです。まあ、イギリスのアンティークコインに投資をしている私が言える立場ではないかもしれませんが、日本が生み出した日本アニメの原画は、私たち日本人が投資対象にすべきコレクタブル資産と言えるのではないでしょうか。
 もちろん、私がアンティークコインとアニメ原画を選んだのは、どちらも集めるのが好きという背景があったからです。どうしても好きになれないモノを無理に投資対象にするのは本末転倒ですが、逆に言えば、投資するコレクタブル資産を一つに絞るのも、非常にもったいないような気がします。何種類のコレクタブル資産に分散させるかは、運用したい資金量によって人それぞれ変わってくるでしょう。
 資金量がそれほど多くないのに、あれこれコレクタブル資産に分散させるのは逆効果です。一つのコレクタブル資産にある程度の資金を振り分けられないと、集められる種類や数量が限定され、十分に楽しめないでしょう。コレクションを少しずつ育てていくのがコレクタブル投資の本来の姿なのですから。

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