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オークションの面白さと恐ろしさ

オークションでの落札はクセになる快感

 コレクタブル資産は、手元に保有する喜びに加え、欲しいモノを探して納得できる価格で手に入れる過程も大きな楽しみです。珍しいモノを入手する手段として定着しつつあるのがオークションです。私もアンティークコイン収集では、特に海外のオークションをよく利用しています。オークションは一番高値を提示した人が買う権利を取得するという非常に公平な仕組みであり、オークションの落札履歴は事実上の「相場」としてコレクターの間で共有されます。
 オークションでは、各ロットについて落札できるのはたった1人だけです。熾烈なバトルを勝ち抜いて狙ったモノを落札できた時の喜びは格別で、一度そういう体験をするとオークションに参加することがクセになってしまうほどです。最近では、インターネット経由でライブ入札に参加できるため、自宅から世界中のオークションに簡単に参加できます。本当に便利な世の中になったものです。
 オークションハウスによってオークションのルールや採用されているプラットフォームはまちまちですが、基本的な仕組みは世界中でほぼ共通しています。高額品が出品されるメインのオークションは、入札者がホテルの一室などの会場に足を運ぶフロアオークションの形式で開催されます。そのフロアオークションにインターネットでリアルタイムに参加できるのがライブ入札です。ライブ入札では、会場でオークションを取り仕切るオークショニアの映像が配信され、さながら会場にいるような雰囲気を味わえます。
 もうかなり昔のことですが、日本のバラエティ番組で俳優の私物などをオークションにかけて、スタジオに集まった視聴者が手を挙げて金額を叫び合うという企画が人気を呼びました。あの番組を見たことがある人は、オークションとはあのようなものだと思っている人もいるかもしれません。しかし、実際のフロアオークションでは、オークショニアが示す金額に対して、参加者は自分の登録番号が書かれた札(パドル)を上げる、または下ろすという単純な動作をするだけです。自分が払ってもいい金額を叫ぶようなことはあり得ません。
 インターネット経由のライブ入札でも、画面に表示される「Bid(入札)」ボタンをクリックするだけです。現在価格が10000ドルなら、Bidボタンをクリックすると、10000ドルより一つ上の金額、たとえば10500ドルで入札したことになります。入札時に金額を入力することはなく、現在価格よりも一つ上で入札するかどうかの選択肢しかありません。この値幅は「increment(インクリメント)」と呼ばれ、オークションハウスによって独自に設定されます。株式投資をやっている人には、tick(ティック、呼び値)と同じようなものと説明した方がわかりやすいかもしれません。
 フロアオークションがスタートする直前までは、インターネットで事前入札を入れることができます。その場合、この価格まで自動的に入札してもらえる上限価格を入力することができます。同値の場合は事前入札が優先されますので、ライブ入札に参加予定であっても、切りのいい金額で事前入札を入れる人もいます。インクリメントは切りのいい金額で幅が大きくなることが多く、たとえば100000ドル未満は刻みが5000ドルなのに、100000ドルに達した時点で10000ドルになったりします。競りあがって100000ドルになると、それに勝つためには110000ドルを入れなければなりませんので、そこで競争相手が降りる可能性が少々高くなります。ライブ入札では、切りのいい金額の権利を獲得できるかどうかわかりませんので、事前入札でその権利を押さえておこうという作戦です。
 本格的なフロアオークションやそのライブ入札には参加経験がなくても、ヤフーオークションやeBayなど個人が自由に出品できるオークションを利用したことがある人は多いのではないでしょうか。私も、主にアニメ原画の入手先としてヤフーオークションを積極的に活用しています。ヤフーオークションは、入札者がいろいろな作戦を立てられる機能が搭載されており、よりエンタテインメント性が高くなっていることが人気の要因ではないでしょうか。

コレクタブル資産オークションの恐ろしさ

 ヤフーオークションの機能として優れていると感じるのは、オークションが行われている最中に「入札履歴」を確認できることです。昔は入札履歴にはヤフーIDが伏せ字なく表示されていましたので、ID検索で競合相手が過去にどんな商品を落札しているのかをチェックできました。今はIDが伏せ字になっていますので、競合相手に関する情報は入手できません。それでも、このロットに何人の人が参戦しているのか、すでに脱落した人がいくらまで入札したのかがわかります。
 先日、ヤフーオークションに、ある人気作品の非常に希少な原画が出品されました。開始価格は意図的に低く設定されていましたが、それは出品者の自信の表れでしょう。私は落札予想価格を25万円前後と予想して、上限30万円まで追いかけるという方針を立てて当日の決戦に望みました。
 終了1時間前では20万円台前半でしたので、自分の読みはまあまあ妥当だったかと思ったのですが、自動延長という仕組みがあるヤフーオークションでは、当初の終了予定時刻を過ぎてからが本当の勝負です。ちなみに、eBayでは自動延長はなく、出品者が設定した時刻に終了します。よって締切数秒前に自分の上限価格を入れる「スナイパー入札」が一般的です。本当に締切前の数秒で決着が付く感じです。
 私の期待に反して、現在価格は26万円、27万円、28万円とどんどん上がって行きました。上限の30万円でも落札できるかどうか怪しくなってきました。いったい何人くらいがこのバトルに参戦しているんだろう、と入札履歴を開いてみてビックリしました。参加者は実質7名でしたが、脱落者を含めて25万円以上の入札をしている人が私を含めて5名いました。この原画を25万円以上でも欲しいという人が私以外に4名もいたのです。早々に脱落した残りの2名も約20万円の札を入れていました。もともとは30万円で降りるつもりでしたが、この情報を見たことで、もう少し追いかけてもいいんじゃないか、と気が変わってしまいました。
 結局、私は325000円まで追いかけましたが、勝てそうな気がしないので降りました。その直後に326000円で落札されました。終了後に改めて入札履歴を確認したところ、1番札は落札者の326000円、2番札は私の325000円、3番札は270000円という結果でした。270000円を超えてからは、落札者と私の一騎打ちだったようです。正直、自動延長の連続で当初の終了予定時刻を1時間半近く延びてしまい、根負けしたという面もあります。
 アンティークコインなどコレクタブル資産のオークションでは、「とても恐ろしいな」と感じることがあります。それは、1人の熱心なコレクターが参加するかどうかで、落札価格が大きく変動してしまう、という点です。もしも私が今回のオークションに参加していなかったとしたら、3番札の一つ上の価格、つまり271000円で落札されていたはずです。私1人が参加したことで、落札値は326000円に跳ね上がってしまったのです。
 オークションの仕組み上、それは当然のことかもしれませんが、主観的に価値が決まるコレクタブル資産の世界では、熱狂的なマニアが数名存在するだけで落札価格はとんでもない水準になってしまいます。オークション落札価格を「相場」だと考えるのは危険なんじゃないかな、と思ってしまいます。でも、熱狂的なマニアがまた1人、また1人と増えていけば、相場はさらに上昇するかもしれません。そのあたりが、オークションの面白いところでもあり、恐ろしいところです。

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