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あそびの本質:意味のないもの、無用のもの

日本最大の観光ガイドエージェンシー『Japan Guide Agency』を運営する、JGA株式会社 代表の藤原です。JGAでは「あらゆる体験をすべての人に」をパーパス(目的・存在意義)に掲げ、全国で訪日外国人向けプライベートガイドツアーを催行しています。

令和6年能登半島地震で被災された皆さまにお見舞い申し上げます。

役にたたないものに時間やお金、自分のすべてを捧げる覚悟こそがあそびと文化の本質だというお話。


意味のないもの、無用のもの

1年前からお茶を習っています。日本文化に親しもう、という安直な思いつきからはじめたお茶ですが、その道のりは果てしない。月に1度のお教室とはいえ、1年かけてもまだまともにお茶をお出しできません。

お茶の基本は袱紗さばき

お茶を習ってはじめに教わるのが、袱紗(ふくさ)の取り扱い方=「袱紗さばき」です。袱紗さばきはお茶を習ってはじめに教わる基本でありながら、すべてのお点前についてまわる奥が深いもの(だそう)です。

以下、遠州流茶道家元師範代・久保田先生のお点前をご覧ください。動画内1:55から2:15あたりをはじめ、袱紗さばきが動画内で何度も登場します。

お茶をやっていない人には意味不明な動作に映るかもしれません。

安心してください。お茶を1年やっている人間からしても意味不明です。

お茶は長い時間をかけて形式を洗練させてきました。その所作や手順にはおおよそ合理的な意味や背景があります。ただ、袱紗さばきだけは当初からまったく意味がわかりませんでした。なぜその扱い方でなくてはいけないのか。なぜ毎度そんな面倒な手順を踏むのか。いまもよくわかっていません。

意味不明の袱紗さばきに熱中する自分

ところがお茶を習いはじめて1年近くが経とうとする頃、驚くことに袱紗さばきが楽しくなってきたのです。はじめは手順もうろ覚えでおぼつかなかった所作が少しずつ手慣れてくる快感。袱紗捌きがぱちっと決まったときの快感。動作と動作の合間に、嬉々として袱紗をさばいている自分。

袱紗さばきが現在の形式になっている意味や背景は不明ながら、少なくとも袱紗さばきの上達に熱中している自分がいるのです。

人が熱中するという行為に合理的な意味や背景は必要ありません。袱紗さばきに熱中するいまとなっては、むしろ合理的な意味や背景は熱中の阻害要因だとすら感じます。

風雅は夏炉冬扇のごとし

白洲正子が、京都御所の近くに住んでいた扇づくりの名人・中村清兄さんについて記したエッセイにこんな一節があります。

しょせん扇はあそびである。冷房の完備した今日では、何の役にも立ちはしない。(中略)それにも関わらず、いやそれ故にこそ中村さんは、精魂をこめて扇を作る。「予が風雅は夏炉冬扇のごとし」と芭蕉はいった。「身を用なきものになす」ことは、平安からひと筋につづいた風雅の道である。

「扇はあそび - 中村清兄」白洲正子

風雅やあそびには痛みがともなう

風雅やあそびは、役にたたない無用のものに価値を見出し、意味や実用を忌むべきものとして遠ざける行為です。意味はないけどおもしろい、理由はないけど気持ちいい、役にたたないけどやめられない、あそびとはそういうものでなくてはいけません。

しかし元来、人間はつい意味や実用、その行為の目的を考えてしまう社会的生物です。なぜその行為をするのか、目的はなにか、便益はなにか。すべてに説明を求められる人間社会では意味や実用のない行為はどんどんと後回しにされないがしろにされていきます。

そう考えると意味や実用といった社会的要請を意識的に排除しようする風雅やあそびは気楽なレクリエーションイメージからかけ離れた、痛みをともなう行為といえます。

風雅に没頭した足利義政の凄み

白洲正子の一文を読んですぐに思い浮かぶのは室町幕府第8代将軍・足利義政です。義政は政治よりも風雅に秀で、「わびさび」の美意識に象徴される東山文化を大成させたことで知られています。

義政は、自身の後継者問題から応仁の乱が勃発したあとは現実社会に背を向け、東山に引きこもって能楽や茶の湯に没頭したといわれています。政治家としては著しく低い評価をうける反面、茶道や華道につながる類まれなる成果を残した大文化人として両極の評価をされる人物です。

「身を用なきものになす」とは社会的生物である人間にとって痛みを伴う行為です。義政のすごいところは応仁の乱という実用的課題の真っ只中にいながら、それら社会的要請にまったく背を向けて無用の風雅に没頭し尽くしたところにあります。想像を絶する痛みに耐えて文化を育て切ったともいえます。

義政がそのときにまいた種は東山文化という大輪を咲かせ、500年経ったあとも人々を魅了しています。

意味や実用には消費期限がある

意味や実用には消費期限があります。意味や実用は時代やテクノロジーの進化によって変化していくからです。遠い過去から現代にまで伝えられる文化はすべて、意味や実用といった社会的要請が剥がれ落ちたあとにも時代をこえて誰かに共感される価値をたずさえています。

東山文化という大輪を咲かせた義政を見習うのであれば、意味や実用といった同時代の社会的要請を無視して風雅やあそびに没頭する覚悟が文化形成に不可欠です。

なぜその行為をするのか、目的はなにか、得られる便益はなにか。意味や実用といった社会的要請を無視する、とはこうした質問をすべて無視することです。なんだかわからないけどみんなが熱中してしまうなにか、消費できないなにか、言語化できないなにかに魅了された人々があそびながら文化を未来へつないでいきます。

あそびと文化の本質とは、行為の目的・実用性・便益すべてを消し去り、自分でも説明できない衝動に身をまかせる覚悟にあります。役にたたないものに時間やお金、自分のすべてを捧げる覚悟こそがあそびと文化の本質なのです。


参考書籍:


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社名:JGA株式会社
静岡県知事登録旅行業 第2-706号
本社:静岡県静岡市清水区江尻東2-67-3
設立:2013年
​資本金:1,000万円
代表取締役:藤原 一成

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