ワニのいない街で＃３『５０２号室、クマの帽子の人』鈴木しゆう

『ワニのいない街で』というタイトルから始めました。
藤原佳奈のテキストと、俳優で、数珠つなぎで紡いでいきます。
今回は、鈴木しゆうさんと一緒に。
あっちへ広がり、こっちへ重なり、
あなたの頭に立ち現れる、不思議な街をお楽しみください。

↑クリックしたら、youtubeから声を聞けます。
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ワニのいない街で
＃３『５０２号室、クマの帽子の人』　テキスト

渡辺さん。
こんばんは。クマの帽子の人です。
いきなりこんなの聞かされても困ると思うんですけど、普通困ると思うんで、なので、はじめに、すみません。謝ります。
………最近、僕、なんかちょっと変なんですね、なにか病気？ 分かんないですけど、多分ちょっと、変なんです。病院にも行ったんですけど、異常はなくって、だから、原因とか病名とかはわからないんですけど。ずっと……夢の中にいるような、現実が現実じゃないような、人も、モノも、ぼんやりするんです。僕には妻がいるんですけど、あ、子どももできたみたいなんですけど、妻が妻なのかどうか、分からないんです。いや、頭では妻だって分かってるんですけど、この人誰だろうって思いながら生活してます。会社に行って、誰と喋っても、何をしていても、自分が自分でないっていうか、とにかく、すべての輪郭が、食べるものも、何もかも、ぼやけてるんです。彩度とか明度とか、世界のそういうものが一切合切、落ちたような。
で、前置きが長くなりましたけど、あの、なぜか知らないですけど、ほんとにこれは謎なんですけど、あなただけ、渡辺さんだけ、はっきりしてるんです。会社の帰りにコンビニによって、レジを打つあなただけは、ブレないんです、渡辺さんだけは、分かるんです。あなただけ、なぜか。
もちろん、あなたと喋ったのは、一回だけです。あと、僕には妻がいるし、子どもできたようだし、変なあれはないんですけど……
……これは、遺言なのかもしれません。いや、別に死なないんですけど。僕の世界で、今、あなたしか目印がないんです。それを、伝えられるのも、やっぱりあなたしかいないんです。すみません。なんか変なこと、長々と。

＃３おわり
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さて、３回目でした。
藤原です。聞いてくださったり読んでくださったり、ほんとありがとうございます。回を追うごとに妄想が楽しくなってきているので、一緒に楽しんでくれる人が増えるとええなあ。
これまでの回が気になる方は、下のリンクから見れますので、気になる方はぜひ。『ワニのいない街で』で、noteのマガジンにもしているので、まとめて見れるようにもなってる、はず。ここからどんな街が広がるんかなー。ワニって出てくんのかなあ。あー。妄想の世界にワープしたい。フィクションって、起きながらにして、夢の中に入っていく気持ちよさがありますよね。この生活で、なんかほんと、身にしみてます。フィクション。サンキューフィクション。

お次＃４は、
李そじんさんで、『コンビニ店員、渡辺』です！

〈＃１『５０３号室、飼い主』佐藤蕗子〉
〈＃２『５０２号室、隣人』百花亜希〉

そして、このモノローグ企画をきっかけに、遅ればせながらyoutubeチャンネルも作りました。（登録者数現在2020/4/18  22:52 時点で18名！地道ぃ！）オンラインの劇場のような場所にできたらと思っています。ぜひポチリとご登録をばっ。

みずとひ-miztoy-

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