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ワニのいない街で#4『コンビニ店員、渡辺』李そじん

『ワニのいない街で』というタイトルから始めました。
藤原佳奈のテキストと、俳優で、数珠つなぎで紡いでいきます。
今回は、李そじんさんと一緒に。
あっちへ広がり、こっちへ重なり、
あなたの頭に立ち現れる、不思議な街をお楽しみください。








ワニのいない街で
#4『コンビニ店員、渡辺』李そじん テキスト

わたし、菌類になりたいんです。

きのことか、カビとか。そういう、息も聞こえないような存在に。
だから手始めに、こうして首だけ出して庭に埋まってみることにしました。
プレゼントを、もらったんです。バイト先のコンビニで、お客さんからいきなり、袋を渡されて。その人は毎日来る人で、結構好みの顔立ち、背の高いプレーリードッグ、という感じの人で、思わず素直に受け取ってしまいました。迂闊でした。袋の中には、USBが入っていて。彼の好きな写真とか音楽のデータかなと思ったんですけど。開いてみると、その人の声でした……これをみなさんにどう説明すればいいか難しいんですけど、それは告白? 
告白といっても愛だの恋だのの類ではなくて……不思議な病状を、わたしにだけひっそりと告げる声でした。これは遺言だ、とも言っていました。わたしは、彼に選ばれてしまったことを後悔しました。
もちろん、それは嘘かもしれないし、そう考えるのが健全だし、ただの戯言、気にしなければいいだけなんですけど、でも、わたし何度も聞いてしまった。何度も聞いてしまったら、その告白は、わたしにとって本当になってしまったんです。
だから、耐えられませんでした。コンビニはすぐに辞めました。それなのに、彼の視線は消えませんでした。どこにいてもその眼差しに捉えられていることを想像します。注射針が刺さる直前のような、耳元で鳴り続ける蚊のような、取れない痒みのような、視線が当たるところでじっとしていると、太陽の光が虫眼鏡で黒を焦がすように、わたし、じりじり狂ってしまいそうなんです……
こうして、土の中で菌類に近づいていくのは、安心します。体が溶けて分散して世界に雲散霧消して、彼の視線だって、ばらばらに散っていく気がする……“渡辺さん。こんばんは。クマの帽子の人です……”いえ、わたしは菌類になりたいのです、重い視線をなかったことにして、一切の荷物を背負わず、ただひっそりと穏やかに過ごしたいのです…………………誰かもう一度、彼の声を再生してくれませんか……?

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さて、4回目が終わりました。
聞いてくださった方、ありがとうございます。
今回は、より演劇のモノローグに近い形にしてみました。
いかがでしたでしょうか。
李そじんさん、庭に埋まってしまいましたね。
鈴木しゆうさんがあんな録音を手渡したばかりに……。
さて、次回は小野寺ずるさんです。
まだ書いていないのですが、なんとなく李そじんさんのを聞いた後、
「口の悪いお婆ちゃんが銃を抱えている」というイメージが湧いたので、

#5は、小野寺ずるさんで、『銃を持った、婆さん』というタイトルでお送りしようと思います。
さあ、この街はどこへ向かうんでしょうね。
俳優さんの声をたよりに、冒険していきます。

このモノローグ企画をきっかけに、youtubeチャンネルを作りましたが、
今回、SoundCloudにもあげてみました。試行錯誤中です。
どうやると聞きやすいんやろ。そのあたりも、ご意見お聞かせください。
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