狂気をもって人生を破壊せよ〜「四月は君の嘘」から学ぶ人生の自由
「四月は君の嘘」という漫画を知っているでしょうか。アニメ化はもちろん、広瀬すず主演で実写映画化までされた大ヒット漫画です。
主人公は「神童」と呼ばれた天才ピアニスト少年。彼は母親の死をきっかけにしたトラウマによって、11 歳でピアノを弾けなくなってしまいました。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第1巻より
少年はピアノから遠ざかり、普通の中学生になりました。幼馴染と馴れ合いながら、居心地のいい日常が流れていきます。それでも、彼の目には、世界は「モノトーン」に映っていました。譜面のように。鍵盤のように。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第1巻より
ピアノに向き合わない理由を合理的にひねり出し、自分の本性に蓋をした状態で見える世界は、生粋のピアニストにとって色褪せたものだったのです。
第1巻の1話目から、主人公の置かれた状況を流れるように物語る巧みさに感心しながら、私は「なぜ人生はこんなにもつまらないのですか?」という質問に対する名回答を思い出しました。前段を引用します。
不幸ではないけれど、幸せでもない。安定して居心地はいいけれど、つまらない。主人公は「理性と合理的思考をもって」自分の人生をモノトーンにしていたのです。
この勤勉な少年なら、このまま居心地の良い人生を作り上げることができたでしょう。なにせまだ 14 歳です。ぐずぐずとピアノを引きずる年頃を過ぎれば、「運動不足解消のためランニングして、ご褒美にちょっと買い物」みたいな無難な人生を歩むことも、難しくはないはず。
けれども、それは許されませんでした。個性豊かな同級生のヴァイオリニストが、トラウマの事実を知りながら主人公を舞台に引っ張り上げます。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第2巻より
もう一度ピアノに向き合うことは、彼にとって耐え難い苦痛です。惰性で送る居心地のいい日常をかなぐり捨て、重いトラウマを克服する必要があるからです。
そのためには、どうすればいいのか?
名回答の中段を引用します。
そう。主人公は引っ張り上げられた舞台の上で開き直り、狂気に身を委ねるほかありませんでした。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第2巻より
平穏な生活を捨てて「合理的に考えたら到底受け入れられないことをし続ける」というイバラの道を進むしか、モノトーンを変える方法はありません。
少年はそれが「できる人」と「できない人」との間に線を引き、自分は「できない人」と思い込んで自力ではできずにいました。しかし、ヒロインの真っ直ぐな気持ちに引っ張られて、イバラの道に足を踏み入れたのでした。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第1巻より
では、モノトーンを変えた先に何があるのか?
「狂気をもって、今までの合理的で正しい人生を破壊する」と、どうなるのか?
自分が、いま確かに「生きている」という実感を得られるのです。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第5巻より
もちろん、そんな保証はありません。むしろ、挑戦は報われない可能性の方がずっと高い。実際、彼女は「失敗するかも。全否定されちゃうかもしれない」と認めます。
それを覚悟で「それでも歯をくいしばって舞台に上がる」……何かにつき動かされて命懸けであがくのが「演奏家」であり、私たちは「そうやって生きてゆく人種」だと言い切ります。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第2巻より
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第11 巻より
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第1巻より
まったくもって不器用な生き方です。衝動に身を任せた非合理的な思考です。まともな人には「到底受け入れられないこと」です。「運動不足解消のためランニングして、ご褒美にちょっと買い物」でいいじゃないか。
そのとおり。
名回答の後段を引用します。
人生に正解はない。各自が好き勝手に生きればいい。「つまらない人生に安住する」ことが悪いわけではないし、それなら「狂気を手に入れる」必要もありません。
「歯を食いしばって舞台に上がる」のもよし、上がらないのもよし。何をしたっていいし、どこへ向かってもいい。「それも人生」です。
ただ、もし世界がモノトーンに見えていて、それを変えたいと考えているなら、この漫画が原因と解決策を教えてくれます。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第5巻より
原因は「できる人」と「できない人」との間に勝手に線を引き、自分は「できない人」だと思い込んで何にも挑戦しないことです。
そして、解決策は、狂気を手に入れてイバラの道を進むこと。つまり、正直に自分と向き合いながら、いま歯を食いしばって挑戦を続けることです。
人生は無限に自由です。
そんな当たり前のことを、この漫画はあらためて教えてくれます。
***
さて……そんな重要なことを教えてくれる「四月は君の嘘」ですが、最後の最後に仰天の事実が明かされます。それは、タイトルの「嘘」とは何か、です。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第 11 巻より
この大きな伏線回収には、グッと感じ入るほかありません。作中でヒロインが何度も泣いているだけに。
新川直司・作, 講談社・出版「四月は君の嘘」第8巻より
なぜ彼女は泣かなくてはならなかったのか?
彼女がついた嘘とは何か?
もちろん、ネタバレはしませんので、気になる方は読んでみてください。
「舞台に上がる」「上がらない」を含めて、すべては自由。その喜びを噛み締めながら、自分の人生を生きていきましょう。
====
・この記事を書いた藤田の Twitter は、こちら。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?