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検察庁法改正案について調べてみた

Twitterで600万人以上がハッシュタグをつけたとか、途中でハッシュタグが変わったとか盛り上がっていた「検察庁法改正案」について、なにが問題なのかよくわからなかったので、今更ながら調べてみました。

5月9日深夜から10日朝にかけて、ハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」がtwitter上で広がった。著名な芸能人らも参戦し、一時は500万ツイートにも達したという。その後、なぜか大量のツイートが削除されたらしいが、不可思議な出来事だった。

定年延長のための議論だったはずが

芸能人の話はほっておきます。もともと、なにが起きているのかから始めます。

まず、今起きているのは、国家公務員の定年延長が盛り込まれた公務員法改正と地方公務員法改正に、検察庁法改正をセットにして議論して成立させようというのが、この国会審議です。

国家公務員法の改正案は現在、原則60歳となっている定年を、2022年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、30年度に65歳とするもの。60歳以降の給与は当分の間、それまでの7割とし、60歳を機に局長などの管理職から原則退く「役職定年」も導入する。付則には人事評価や給与制度についても、見直していくことが盛り込まれている。地方公務員法も同様に改正する。

これと一緒に、検察庁法で決められている検察官の定年を同じ65歳にしようというのが、今回の法案改正の大筋です。

検察庁法の改正案は、すべての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げる内容。24年度に完了する。現在は検察トップの検事総長だけが例外として65歳になっている。

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で、この検察官や検事総長の定年延長を、先だっての黒川東京高検検事長の定年延長と併せて読み込む人と、検察官の定年延長に関して、内閣の介入ができる特例条項があることが問題だという人、それをごっちゃにしている人が、今回の問題を広げているということのようです。

でも、公務員の定年延長はそんなに問題なのでしょうか?

検察庁法は1947年に定年を決めていた

では、なぜ公務員法の定年延長と検察庁法の定年延長をセットにする必要があるのかといえば、定年条項の成立が異なるからではないでしょうか。

現行の検察庁法というのは、実は昭和22年(1947年)に発行されたときに、すでに定年がきめられております。

第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

こんなに早く定年がきめられた役職はありません。民間の定年だってはっきりしていないし、第一、同じ年に発行された国家公務員法では、このとき定年は決まっていません。国家公務員の定年制度は昭和60年3月31日に始まったのです(PDF)。

では、なぜ、検察庁法は定年を盛り込んだのか。

検察トップが、長く居座れば、判断が偏る危険性があると考えたからだと言われます。だからこそ、検事総長は2年しかなれないわけですね。

検察の公平性・中立性を保つため、検事総長は法務省の特別の機関である検察庁の職員であるにもかかわらず特別な地位を与えられており、次長検事および検事長とともに認証官とされている。その理由は、職務上対応する司法組織として最高裁判所判事と高等裁判所長官が認証官なので、釣り合いを取ることである(ただし、検事総長は国家公務員法2条3項での特別職としての指定は無く、裁判官(法2条3項13号)であるそれらと異なり分類としては一般職となっている。)。

ところが、検事総長は行政組織のトップで、上司は法務大臣になります。

最高裁判所裁判官(最高裁判所判事と高等裁判所長官)と比されますが、ちょっと扱いも違います。

最高裁判所裁判官は「識見が高く法律の素養がある40歳以上の者から任命される」と定められている(裁判所法第41条)。ただし、50歳以下の者が任命された例はない。1964年1月31日以降は、全員が60歳以上から選ばれている。定年は70歳(裁判所法第50条)。

最高裁判所裁判官は、国民審査もありますしね。

検事総長を最高裁裁判官と並べるなら、定年も一緒にしたらとか、いろいろ考えることが必要なんじゃないでしょうか。大体、1947年の65歳と今の65歳じゃ全然、違いますよね。

問題は定年延長にあるわけじゃない

当然、定年延長だけの話ならば、こんなに揉めないわけです。

問題は、第9条と第22条の付記にあるわけです。

第9条は検事正のこと、第22条は検事総長の定年を決めています。

先ほど見た、シンプルな第22条が、長々と読み込まれて解釈が入り、人事院が決めてきたものを内閣に置き換える条項が多数入っているわけです。

検察庁法改正部分抜き出し (510KB)

で、この読み込みがなにと付随するかというと、先日の黒川さんの定年延長の際に閣議決定した内容で用いた解釈を盛り込んでいるように見えるわけですね。

さらに、国家公務員法とのすり合わせや、検察庁法が制定された後、長らく人事院が公務員人事を担っていたのを内閣人事局に移したことに伴い、人事院から内閣へ人事権を読み替えるための作業が入っているわけです。

この、人事院から内閣への移行、さらに内閣もしくは法務大臣の定める規則で定年が延長できることなどが、問題であるというのが騒動の根幹のようです。

ジャーナリストの神保さんがまとめたのは、以下の通り。

いずれにしても結論としては、検事総長については最長で現在の65歳が68歳に、次長検事、検事長、検事正については現在の63歳が66歳まで定年が延長可能になり、しかもそれが内閣の胸先三寸で延長できたりできなかったりすることになります。

この内閣の胸先三寸というところが、野党及び新聞社は気に入らないということのようです。

もともと人事権は、内閣にあるのでは

ただ、その論点を誤解及び理解不足だという人もいます。

「なぜ特例規定を設けるのか、理由がさっぱり分からない」。関西のある現職のベテラン検事は首をかしげる。独立性を保ち特定の関係者との癒着を避けるため幹部でも1~2年で後進に道を譲るのが通常だ。

先ほど書いたように、もともと定年規定があるのは、この独立性を求めてのことではないかということです。それなのに、そこに内閣が介在できるかのような法案にする上に、この時期に出すのは、ますます、勘繰られるように仕向けているとしか思えません。揉めるように持っていくようにしか見えない。

さらに、もともと行政上の一機関である検察庁の人事権は、内閣にあります。

現在も法律上は検事総長や検事長の任命権は内閣にある。内閣が検察側の人事案を尊重するのが慣例とされるが、時に検察の捜査は「独善的だ」「暴走だ」と批判されてきた。別の幹部は「検察人事に内閣の意向が全く反映されないとなると、検察だけで人事を決めて民主的なコントロールが利かなくなるが、それでいいのか」と疑問を呈す。

検察OB が怒っているのは、この人事権に介入できないから、つまり、検察OBのコントロールが効かなくなるからでは、という冷めた声も有ります。

検察OBはなにを恐れているのか

検察OBが法務省に意見書を提出したのは、驚きました。そして、その全文を紹介しているのは朝日新聞なんだな、というあたりにも引っ掛かりがないわけでもないです。

検察庁法改正に反対する松尾邦弘・元検事総長(77)ら検察OBが15日、法務省に提出した意見書の全文は次の通り。

この意見書でも、多くの論点は、黒川氏のことで、それが現場の法案に沿わないこと、閣議決定や安倍総理の答弁は法案解釈の間違いで有り、検察庁法は上位法(特別法)なので国家公務員法を適用できないことを説いています。つまり、ここに怒っているわけです。

今回の法改正は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を殺(そ)ぐことを意図していると考えられる。

なぜ、ここに怒るのか。それは、戦後の検察と政治の歴史が、闘争の歴史だと考えるからでしょう。

かつてロッキード世代と呼ばれる世代があったように思われる。ロッキード事件の捜査、公判に関与した検察官や検察事務官ばかりでなく、捜査、公判の推移に一喜一憂しつつ見守っていた多くの関係者、広くは国民大多数であった。

田中角栄元首相の逮捕など、大きな事件だったロッキード事件で検察を目指した人も多いでしょうし、それまで政治によって蓋をされた事件が続いた戦後の画期だったと思うのでしょう。

当時特捜部にいた若手検事の間では、この降って湧いたような事件に対して、特捜部として必ず捜査に着手するという積極派や、着手すると言っても贈賄の被疑者は国外在住のロッキード社の幹部が中心だし、証拠もほとんど海外にある、いくら特捜部でも手が届かないのではないかという懐疑派、苦労して捜査しても(1954年に犬養健法相が指揮権を発動し、与党幹事長だった佐藤栄作氏の逮捕中止を検事総長に指示した)造船疑獄事件のように指揮権発動でおしまいだという悲観派が入り乱れていた。

でも、結局、この事件が検察の思うように進んだのも、政治家が後押ししたから(そのことは、この意見書にも書いてあります)でしょうし、それは稲葉法務大臣、三木首相という政権だったことが大きいのではないでしょうか。つまり、検察が活躍できたのも政権の都合だし、活躍できないのも政権の都合ではないか、というふうにも読めるのです。

しかし検察の歴史には、(大阪地検特捜部の)捜査幹部が押収資料を改ざんするという天を仰ぎたくなるような恥ずべき事件もあった。後輩たちがこの事件がトラウマとなって弱体化し、きちんと育っていないのではないかという思いもある。

厚労省の村木厚子さんの事件のことですね。

同年9月21日に朝日新聞は、被告人のひとりが作成したとされる障害者団体証明書に関し、重要な証拠が改ざんされた疑いがあることを朝刊でスクープした

結局、検察がロッキードの時みたいにカッコよくあって欲しいというOBの忸怩たる思いと、検察の人事を政治家に握られることへの恐怖が出させた意見書のように読みました。

この法案が通って、得するのは誰か

わからないのは、なぜこのタイミングで法案を審議し、強行採決も辞さない程、自民党が押しているのかなんですよね。

国家公務員の定年延長は、労組の支持がある立憲民主などが動きそうな法案ですし、長いこと議論してきたはずです。

このタイミングだから、こういう議論になるわけです。

これに対し、森氏は会見で「黒川氏の人事と法改正は関係ない」と強調。与党は、改正案は2022年4月施行のため、同年2月に65歳になる黒川氏の定年は再延長できないと説明している。

でも、本当に黒川さんを検事総長にして、安倍さんが捕まらないというような簡単な話なのでしょうか。辞めてから起訴すればいいんじゃないですかね? 田中角栄だって現役で逮捕したわけじゃないでしょうに。

現役の国会議員の解説です。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月15日放送)に自由民主党参議院議員の青山繁晴が出演。検察官の定年を引き上げる検察庁法を含む、国家公務員法等の改正案について解説した。

今回の法案が通っても、黒川氏に利点はないというのです。

青山)今回の法改正というのは、定年のことです。仮に無事に成立したとして、施行されるのは2022年4月1日です。ここが少しややこしいのですけれど、定年の延長と勤務の延長とあるのですが、問題にされている黒川検事長は、定年ではなくて、勤務の延長をされて8月7日まで務めることができる。そのときに検事総長になると、65歳まで定年が延びる。定年が延びても、黒川さんは2022年2月8日で65歳になり、そこで終わりなのです。

この辺りの議論の整理が、今ひとつできていないように思えます。

野党は、とにかく反対なわけですけど、内閣が行政トップの人事を握るというのは、内閣人事局ができた時からの流れなわけです。

内閣人事局は、「国家公務員の人事管理に関する戦略的中枢機能を担う組織」と位置付けられ、(1)幹部職員人事の一元管理、(2)全政府的観点に立った国家公務員の人事行政を推進するための事務、(3)行政機関の機構・定員管理や級別定数等に関する事務などを担当する

その最後の砦が、行政機関としての検察庁なのかもしれません。

そして、この内閣人事局を作り、それを活用して官僚を牛耳ってきた安倍総理の目指すところなのかもしれません。

そういう意味で、安倍さんの悲願の一つなのかな。だから、周りの人たちはしゃにむに動くんでしょうか。

私は、これは、内閣という名で語られてますが、内閣官房という組織が、国を牛耳るための仕組みを、安倍総理を利用して立て付けているように見えて仕方がないんです。

総理は誰でもいいんです。内閣官房が、官僚を牛耳り、行政権を動かしていく組織になれば。立法府は大した人間がいない国会議員だし、司法は世間知らずな判決しかできないし、内閣と検察を抑えれば、この国を自由にできる。そう考えている人がいるんじゃないでしょうか。

それは間違っていると思いますが、それが安倍さんの発意でもないように思うんですよねえ、あの人は利用されているんじゃないかと。最近、表情がめっきりなくなって、もう一部機能劣化してしまったようにも見えます。記憶悪いし、滑舌悪いし。調べてもらったほうがいいんじゃないでしょうか。

それはさておき、黒川氏の問題で頓挫することで、国家公務員の定年延長が先延ばしになることについて、反対している人はいないんでしょうか?

そこが気になります。



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