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一発屋芸人は「ざんねんないきもの」だった

再放送されたSWITHインタビュー達人達を録画しておいて見ました。

達人は、動物学者の今泉忠明さんと髭男爵の山田ルイ53世。

「ざんねんないきもの事典」の監修で知られる動物学者・今泉忠明と、自他共に「一発屋」と認めるお笑い芸人・作家の山田ルイ53世(髭男爵)。二人が「残念」を語り尽くす

「ざんねんないきもの」事典を生んだ今泉さんとは

今泉さんは、「ざんねんないきもの事典」の監修で知られるとありますが、著名な動物学者で著作がたくさんあります。親子2代と思ったら息子さんも動物学者なので3代だそうです。

動物学者である父親の自然観察について行って手伝ったのが始まりで動物観察の面白さに目覚め、以来、ひたすら野生動物を追いかけ、その不思議と面白さを伝えるために動物について書いてきた方です。

ニホンカワウソ、イリオモテヤマネコ、トウキョウトガリネズミなど、絶滅したと言われていた動物を再発見し、その保護のために活動してきました。

この本でも、動物への目線は同じで、「ざんねん」という言葉は、ダメとかマイナスではなく、動物の進化は、良いことばかりではなく、多様性に満ちている結果、「どうしてそうなった」とツッコミたくなるようなユニークなものも多い事に興味を持ってもらうために「ざんねん」と言ってみているのだそうです。

なんと言っても「ざんねん度」は「命の危険が大きいほど」高くなっているという点に、その「ざんねん」への視点が現れています。

ルネッサンスできない山田ルイ53世とは

その今泉さんが、一発屋芸人にして一発屋芸人について書いた本が売れて作家になった山田ルイ53世と何を対談するのか、気になって録画したわけです。

山田ルイ53世については、その言葉と思考について感銘して書いた記事があります。

成績優秀で将来を嘱望されていた「良い子」の山田くんは、ある日、登校途中にうんこを漏らしてしまい、学校で誰にも気づかれずに洗ってカバンにしまったはずのそいつが、匂ってきてしまい、それを周りに気づかれるのが怖くて教室から逃げ帰り、そのまま六年間の引きこもり生活に入ります。

そして、成人の日が近づいたある日、大学卒業認定試験に挑戦し、大学受験をして愛媛大学に合格。そこで知り合った樋口くんと芸人になるわけです。

動物は引きこもりますか?

対談は、多摩動物公園で1回目、神保町の書店喫茶店で2回目が行われています。それぞれのフィールドと言える場所ですね。

山田さんから今泉さんへの質問は、「動物は引きこもりますか」ということから始まります。今泉さんの答えは、「死んでしまいますね」という至極真っ当なストレートなものでした。

これは、人間と他の動物のいちばんの違いかもしれません。人間は社会を作って生きないと生き延びられなかった動物で、社会を維持するために言葉や仕組みを作って、さらに生き延びるために道具を作り、記憶を駆使するようになったわけです。

その社会や、道具の生産や、記憶など人間を生かすための仕組みが、人間に危機を迫るようになっているのが現代社会で、これは今泉さんの定義で言えば「ざんねん」なことです。進化が種の保存に脅威を与えるわけですから。

不思議にクロスする二人の視点

二人の人生にクロスするところはありません。

しかし、二人に共通の視点がありました。

生き方の多様性です。

もっと言えば、どうにもならないことを受け入れて生きることで、種は多様になったということをフィールドワークで実体験してきたのが今泉さんで、引きこもりから芸人になり、売れない芸人が一発屋になり、今作家と言われている山田さんは、実体験で多様でありうる人生を体験しています。

進化と「ざんねん」

今泉さんの「ざんねんないきもの事典」における「ざんねん」を捉えて、山田さんは、「一発屋芸人というのは、ざんねんな生き物ではないかと思うんですね」と言います。

今泉さんは、「ざんねんというのは、それがダメだということではなくて、進化の過程で獲得したはずの形態や行動が、決して優れていないことを示している」のだと言います。例えば、パンダは、熊との競争に敗れ、熊のいない高い場所に逃れ、熊の食べない笹を食べて生き延びてきたわけですが、ほとんど消化しないし、栄養が少ないから、一日中食べ続けていないといけない。

これは、「ざんねん」という事になります。

進化というと「優れたもの」と思いがちですが、適応した結果であって、退化や変化の結果でもあるわけです。あることができるようになることで、あることができなくなることもある。それが進化です。

一発屋と「ざんねん」

芸人になったからには、売れなければいけません。それには、売れる方法を見出さなければなりません。ギャグであったり、漫才の手法であったり、笑いを呼び起こすある種の行為であったり。これは生き延びる方法を得るという意味で、生き物の進化と同じです。

一発屋芸人というのは、一瞬爆発的に売れたわけです。さらに言えば、誰もが思い出せるくらいの衝撃的な笑いの方法を生み出したから、一発屋と言われても、ネタと個人を特定できるわけです。

ところが、時代の変化に同じやり方ではついていけなくなるわけです。その過程は、進化の過程で爆発的に増えたものの、気候の変化や地上の事象に対応できず、絶滅危惧種になったり、今「ざんねんな」と言われる生き物になったりしているのに似ています。

山田さんは、一発屋芸人は、笑いの方法の発明者として、もっと敬意をうけるべきだと主張したくて「一発屋芸人列伝」を書いたと言います。

そして、その後の生活を新たに書き下ろしています。

動物学者と一発屋芸人が見つめる現在

番組の最後に、今泉さんは、山田さんの思考は科学的であり、人生は動物的だと指摘します。

多様性を受容する思考方法と、その瞬間を刹那的に感じて逃げる方向を決めてきた生き方。それが、山田ルイ53世を作ったのだろうと。

動物には、過去も未来もなく、現在の連続です。

過去に縛られて生きるのではなく、未来を夢見て生きるのでもなく。

ダメだった過去はそのまま受け入れ、これからに大きな期待をするでもなく、今を生きる。それでもいいのではないか、と山田ルイ53世は言います。

動物を見続けてきた今泉さんの視点と、今の連続を生きてきた山田さんの視点が、交錯した瞬間が、この番組にありました。

想像していた以上に、期待していた以上に面白い対談でした。








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