漫才論| ¹⁴³漫才の技術 「『進行役』と『ボケとツッコミ』のスイッチング」
最近の漫才は,どちらか一方が進行役で,ボケとツッコミも完全に分かれているスタイルが主流ですが,「スイッチング」というのは,「進行役」や「ボケとツッコミ」をネタの途中で入れ替える技術のことです(一般的には「スイッチング」とは呼ばれていないと思いますし,最近はこれができる漫才師自体が減ってきています)
「進行役」のスイッチング事例
漫才は通常,「進行役」が話を進め,もう片方は「相槌」を入れます。この「進行役」と「相槌」の役割が途中で入れ替わる事例がこちらです。「進行役」と「相槌」が何回か入れ替わっている部分に注目しながらご覧ください
キングコング [⬇︎進行役 *スイッチングポイント]
「進行役」と「相槌」は,固定してしまったほうが楽です。「進行役」は自分のペースでしゃべり,もう片方がそれに「相槌」を入れれば成立するからです
この事例のように,「進行役」を途中で入れ替えるとなると,急激に難易度が上がります。どちらかが「スイッチ」する箇所を間違えただけで大変なことになる場合もありますし,そもそも,二人ともしゃべりが達者でなければできない"技"です
これができれば,漫才の「質」と「テンポ」はグッと上がります。固定されていると「進行→相槌」のパターンでしか進めないので,「あまり変化がなく,テンポは一定で,単調になる」恐れもありますが,スイッチングができれば,「入れ替わり」や「進行→進行→相槌」という別のパターンを織り交ぜた変化に富んだ漫才をすることが可能になります
「ボケとツッコミ」のスイッチング事例
続いて,「ボケとツッコミ」がネタの途中で入れ替わる事例です
おぼん・こぼん [⬅︎ボケ ⬆︎ツッコミ *スイッチングポイント]
「ボケとツッコミ」も固定してしまったほうが楽ですし,ダウンタウン以降,「ボケとツッコミは固定するのがあたりまえ」になったために,「そのほうがみやすい」と感じるお客さんも増えました。ただ,この場合やもやはり,固定すると単調になる恐れがあるため,最近では「ツッコミもボケる」というコンビも少しずつ増えてきています
これができれば,「ボケ←ツッコミのようなボケ←ツッコミ」という"技"も使えるようになり,ボケ数も増やせます。この場合も,変化に富んだ漫才をすることが可能になります
加えて,「内容からしてこのボケは本当は相方が言ったほうがおもしろい」と思っても,ボケを固定していると全部ボケの人が言うことになります。また,同じ理由でボツにするボケが出てしまうこともあります。「ボケとツッコミ」を自由自在に入れ替えることができれば,この問題も解決することができます
このスタイルのほうが
合っているコンビもいる
「進行役」と「ボケとツッコミ」,どちらのスイッチングも難易度は高いですが,これができればネタのバリエーションは格段に増えるので,試してみる価値はあると思います。特に,普段の会話ではどちらもボケたりツッコんだりしているコンビの場合はむしろ,「このスタイルのほうが合っている」という可能性もありますので,ぜひ一度チャレンジしてみてください!
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「みんなで作る漫才の教科書」とは,テーマ別に分類した「漫才論」にみなさんから「質問」「意見」「反論」などをいただいて,それに答えるという形式で教科書を作っていこうというプロジェクトです
THE MANZAI magazine
❶「自分たちにしかできない漫才スタイル」を確立する方法 ❷しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる ❸「漫才台本の書き方」と「オチのつけ方」 ➍ボケやツッコミってどのようにして思いつくものなの? ❺「言い訳-関東芸人はなぜM-1で勝てないのか-」は"現代漫才論"ではない-ナイツ塙さんが何を「言い訳」しているのかが分かれば,関東芸人がしゃべくり漫才でM-1王者になる道が見えてくる- ❻漫才詩集「38」
フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔 出演: おせつときょうた
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】