[読む落語漫才] だくだくVer.2(当て書き:おせつときょうた)
#オチを予想してお楽しみください (4文字)
しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる
●漫才における「相槌」はそのときの雰囲気で自然に入れるものなので通常漫才台本には書きませんが,本格的な掛け合いのしゃべくり漫才をイメージできるようあえて細かい「相槌」を書き込んでいます。それが「読む漫才」です。
おせつ:今日はどうしてもね,最初に言っておきたいことがあるんですよ
きょうた:なんですか?
お:オチです
き:え?
お:漫才のオチです
き:ダメでしょそれは
お:なんで?
き:「なんで?」やないのよ
お:舞台に上がって言いたいことを言う。それが漫才ですからね
き:そやけど
お:そやろ?
き:「漫才の最初にオチ言うのはダメ」って分かるでしょ
お:なんで?
き:だから「なんで?」じゃないんですよ。「オチ」って分かってます?
お:分かってますよ。今日のオチは,「うっ…やられた…」
き:いやそれほんまに言うたらあかんやつや!
お:どうせ言うんだからいいでしょ。いつ言っても
き:あかんやろ
お:なんで?
き:いつ言うかが大事なんですよ
お:今でしょ!
き:絶対今ちゃうわ!
お:通常は最後のほうに言いますけどね
き:「最後のほう」じゃないんですよ
お:何が?
き:一番最後!
お:一番最後だと一回しか言えないじゃないですか
き:あたりまえじゃないですか
お:僕はオチが大好きなんでね,何回も言いたいんですよ
き:「オチ何回も言う」って,頭おかしいやろ
お:大好きなサビのメロディーがね
き:サビのメロディー?
お:一回しか出てこなかったらがっかりするじゃないですか
き:名曲の場合はね
お:お客さんだって大好きなオチのメロディー
き:「メロディー」ちゃうねん
お:何回も聴きたいと思うんですよ
き:そんなことしたら,最後のオチで落ちなくなるでしょ
お:それでも落とすのが漫才師やないか
き:名言っぽく言うてるけど
お:また名言を言ってしまいましたけれども
き:「好きだからオチを何回も言いたい」なんて最低ですからね
お:いいオチだったら,何回言っても落ちますから
き:「いいオチ」とかそういう問題じゃないんですよ
お:今日のオチは結構「いいオチ」なんでね
き:ほんまにやめて
お:何が?
き:「今日のオチはいいオチ」とか言うたらほんまにあかんから
お:なんであかんの?
き:あたりまえやん
お:「ほんまにいいオチをお客さんに伝えたい」という思いで漫才をする漫才師なんて素敵ですよねぇ
き:思いを抱くのは素敵なことかも知らんけど
お:そうやろ?
き:言うたらあかんねん
お:内に秘めてたほうがええの?
き:秘めておいてくれほんまに
お:分かりましたよ
き:ほんで,オチも先に言うてもうたら落ちないから,絶対言うたらあかんから
お:分かったて。ちゃんと最後のほうに言いますから
き:「最後のほう」やなくて一番最後!
お:分かった分かった
き:そんなにオチが好きなんやったらね,落語やったらいいんですよ
お:僕は落語やろうと思ってたんですよ。今日
き:今日!?
お:ひとりで
き:ひとりで!?
お:それなのにあなたがついてきたからね
き:「ついてきた」って失礼やないか
お:急遽漫才やってるだけでね
き:一応相方ですからね。僕
お:こうなったら二人でやるしかないですよ
き:何を?
お:落語を
き:落語を!?
お:古典落語の「だくだく」という演目なんですけどね
き:だくだく?
お:みなさん知ってますかねぇ
き:牛丼の話ですよね
お:「つゆだく」やそれは
き:牛丼のつゆが「だくだく」って話じゃないんですか?
お:「古典落語や」言うてるやないか
き:江戸時代には牛丼ありますからね
お:「つゆだく」言うてないやろ。江戸時代には
き:ほんなら何が「だくだく」なんですか?
お:血ですよ
き:血!?
お:血がだくだく出ちゃうというお噺
き:ホラー?
お:ホラーちゃうわ
き:恐い噺でしょ?
お:「槍で脇腹突かれて,血がだくだく出たつもり」という噺ですよ
き:「出たつもり」はおかしいでしょ
お:何が?
き:槍で脇腹突かれたら,ほんまにだくだく血出ますよねぇ
お:槍で突かれたつもりで,血もだくだく出たつもりなんですよ
き:どういうこと?
お:そういうお噺ですから
き:「つもり」って何?
お:家財道具を全部売ってしまった男が
き:「だくだく」の主人公が?
お:壁一面に白い紙を貼ってね,そこに豪華な家財道具を描いて,いい暮らしをしてるつもりになっているというお噺なんですけどね
き:悲しい噺やなぁ
お:ある日男が寝ていると
き:主人公の男が寝ていると
お:泥棒がやってきて盗もうとする
き:家財道具を
お:どころが,どれも壁に描いた絵だから盗みようがない
き:はぁはぁ
お:そっちが「あるつもり」で暮らしているのなら
き:家財道具が「あるつもり」で暮らしているのなら
お:こっちも「盗んだつもり」になってやろうってことで
き:泥棒のほうも
お:風呂敷を広げたつもりで,そこにいろんなもの入れたつもりで,盗んだつもり
き:盗む物がないですからね
お:それに気づいた男は
き:寝ていた主人公の男は
お:「ずいぶん粋な泥棒やな」ということで
き:確かに粋な泥棒や
お:泥棒と格闘するつもりで,絵に描いた槍を持ったつもりで,泥棒の脇腹を突き刺したつもり
き:ほぉ!ほんなら泥棒は?
お:うっ…やられた〜脇腹から血がだくだく出た…つもり
[拍手]
お:ありがとうございます。この演目を,これから二人でやりますのでね
き:もう全部言うたやん
お:何が?
き:ほんで今オチ言わなかった?
お:「脇腹から血がだくだく出た…つもり」。これが「だくだく」のオチなんですけどね
き:「オチ先に言うたらあかん」言うてるでしょ
お:漫才のオチはでしょ?
き:何が?
お:これは「古典落語」ですから。この演目知ってる方はみんなオチまで知ってるんですよ
き:それはそうですけどね
お:知っているけど知らないつもりで聞く。これが古典落語のマナーやないか
き:知らないつもりで聞いてくださるお客様のためにも最後までオチを伏せておく。それが漫才師のマナーやないか
お:これは落語やから
き:これ自体は漫才なんですよ
お:古典落語はオチがネタバレしてても落ちますから
き:漫才のほうが「落ちない」言うてんねん
お:なんで落語だと落ちて,漫才だと落ちないんですか
き:漫才がまだ「古典」の域に達してないからや!
お:漫才中にまじめな話するなんて最低の漫才師ですよあなた
き:誰が最低な漫才師やほんま〜「まじめな話でも笑い取れるようになったろかい!」ってこのやろー
お:普通のボケでも笑い取れてないやないか
き:「笑い」なんてそんな簡単に取られへん
お:それも言うたらあかんやろ。漫才師が
き:オチ言うよりはましでしょ。落ちなかったらどうやって終わらせんの?
お:何が?
き:この漫才をですよ
お:私がオチを先に言ってしまったせいで,漫才のオチ言うても落ちなかった場合ってことですか?
き:どうやって舞台下りたらええの?
お:それは,謝って帰るしかないですよねぇ
き:謝って帰る!?
お:「申し訳ございませんでした」って
き:「ありがとうございました」みたいに言うてるけど
お:大丈夫ですから
き:何が「大丈夫」なんですか
お:それでも落とすのが,漫才師やないか
き:カッコつけて言うてるけど,あなたちゃんと謝ってくださいよ
お:万が一落ちなかった場合?
き:僕は謝りませんからね
お:あなたは謝らなくていいですから。とにかくね,やってみないことには落ちるか落ちないか分からないんですよ
き:分かりましたよ。やればいいんでしょ
お:古典落語「だくだく」ね
き:ここが白い紙を壁一面に貼った部屋のつもりで,家財道具の絵を描くつもりの芝居をすればいいんですか?
お:そこからやると長くなるから,絵はすでに書いてあるつもりで
き:うん
お:そこに寝てるつもりの芝居をしていただければ
き:ここでね
お:僕が泥棒になったつもりで入ってくると
き:はいはい
お:で最後に,壁に描いてあるつもりの槍があるつもりで,その槍で泥棒になったつもりの僕の脇腹を刺したつもりの芝居をすると
き:「つもり」が多すぎてよう分からんけど,とにかくここで寝てればいいんでしょ?
お:寝てる「つもり」やからな
き:え?
お:ほんまに寝るなよ
き:分かってるわ!「つもりつもり」うるさいんですよ。ほんまに寝るわけないやろ
お:ほんなら盗みに入るよ
き:盗む「つもり」やからな
お:え?
き:ほんまに盗むなよ
お:わかってるわ。何盗むねんこの状況で。最近はみんなしっかり戸締りしてるから入るのに一苦労・・・ん?・・・この家ドア開けっぱなしやないか。間抜けな奴やな。どれどれっと。ん?なんやあれ?ずいぶんと高そうな家具が並んで・・・あっ・・・寝とる寝とる・・・
き:ん?誰や?え?泥棒ちゃう?うわっ・・・大変・・・ってこともないか。うちには取られるもんなんてなーんもないからね。家財道具は全部絵やから。それにしても間抜けな泥棒やなぁ。なんもない家に入ってきて何盗むねん。おもろいことになりそやないか。ここは寝たふりをしてと。見物や見物や
お:おっ・・・ずいぶんとええタンスやないかこれは。ええタンスの中にはええ預金通帳入ってんねん。どれ。あれ?滑んなぁ。滑ってつかめな・・・ん?なんやこれ?絵ちゃう?壁にタンスの絵描いてんの!?何してんねんこいつ!まぁええわ。あそこに金庫がありますからね。しかも開いてんねん金庫が。家のドアも開けっぱなし。金庫も開けっぱなし。ほんまダメな奴やな〜。しかし入ってるねぇ現金。え?こんなに持って帰れる?あれ?え?何?つかめないやないかこれも。え?これも描いてんの?なんやねんこれ。何してんねん!全部絵やないか。「おかしい」思うたんや。金庫の横にこれでもかと金の延べ棒積んで。えぇ?もしかして・・・,金(かね)ないもんやから壁に絵描いて「あるつもり」になって暮らしてんの?なんやねんこいつ。えらい家に入ってもうたな。最悪や。まぁでも…,手ぶらで帰るのもしゃくやしな〜 「あるつもり」になって暮らしているというのなら,こっちも盗ったつもりでやってやろうやないか。よ〜し。タンスの一番下の引き出しをグイッとあけたつもり。中に風呂敷が入っているつもり。こいつの端を持ってダァ〜〜〜っと広げたつもり。タンスの三番目の引き出しからええ預金通帳と金目のものを次から次へと風呂敷の中に入れたつもり
き:何してんねんあいつ。俺が「あるつもり」になって暮らしてるもんやから,盗ったつもりになってるやないか
お:金庫の扉を開けて1億5,000万円を風呂敷に入れたつもり。これでもかと積んである金の延べ棒を風呂敷に入れたつもり。風呂敷をグッと縛ってさて逃げようと・・・思った・・・けれど・・・重くて・・・持ち上がらない・・・つもり・・・
き:(笑)ずいぶんと粋な泥棒やな〜こりゃあ寝てる場合ちゃうわ。掛け布団をパッァーンとはねのけたつもり。「やい!泥棒!」と声をかけたつもり
お:「しまった!見つかってもうた」とうろたえたつもり
き:「警察に連れてくぞ」と腕をつかもうとしたつもり
お:「何すんねん!」と腕を振り払い,右ストレートを繰り出したつもり
き:「殴られてたまるかぁ」と体をかわしてよけたつもり。槍を手にしてビュンビュンとしごいて構えたつもり
お:「こうなったら仕方がない。あれを使うしかない」。秘密兵器の瞬間移動を繰り出して,消えたつもり
き:「あれ?どこ行きやがった」と見失ったつもり。それでも,「ここか?ここか?」と闇雲に槍を突いているつもり
お:「やめろ。振り回すな。危ないやないか」と,怖がっているつもり
き:ついに追い詰めたぞ泥棒!「とどめだ!」と槍を突き刺したつもり
お:うっ・・・やられた〜脇腹から血がだくだく出た・・・つもり
き:・・・
お:・・・
き:どうすんねんこれ
お:何が?
き:どうやって終わらせんねんこの漫才
お:今落ちましたよねぇ
き:落ちてないから続いてんねん。漫才
お:本当に申し訳ありませんでした(帰ろうとする)
き:待て待て待て
お:ちゃんと謝りましたよ僕は。帰ろ
き:帰れるか!こんなんで
お:今帰れたやないか。何してんねん
き:ちゃんと落としてからじゃないと帰れないでしょ
お:そんな漫才師としてのプライドいらんねん
き:「それでも落とすのが漫才師や」て,カッコつけて言うてたのあなたじゃないですか
お:本当に申し訳ありませんでした(帰ろうとする)
き:待て待て。もう一回やろう
お:何を?
き:オチを
お:オチをもう一回!?無理やそれは
き:無理やったら,今から新しいオチを考えてもらおか
お:今から!?
き:どんな状況でも落とすのが漫才師なんやろ?
お:追い込まれていいオチ思いつくタイプちゃうから
き:ついに追い詰めたぞ泥棒!「とどめだ!」と槍を突き刺したつもり
お:うっ…やられた。いいオチが思いつかなくて◯◯◯◯く
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】