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漫才論| ⁷⁰昔の"名作漫才"をカバーするにはどうしたらいいの❓

昭和の漫才には「名作」がたくさんあります。当時は今よりもネタ時間が長いのがあたりまえだったこともあり,しっかりとしたストーリーがあり,オチが綺麗な漫才が主流だったからです

そのような名作漫才は,今やっても十分おもしろいと思います。ただ,「まったくそのままやれるネタ」というのはほとんどあります。映画やドラマの不朽の名作の現代版を制作する際に「リメイク」する必要があるのと同じように,漫才台本も今の時代でも通じるように書き直す必要があります

今回は,夢路いとし・喜味こいしの名作漫才「ジンギスカン料理」をギャロップがカバーしたらどんなかんじになるかを書いてみました

カバー漫才 「ジンギスカン料理」
当て書き:ギャロップ

林:最近ね
毛利:はいはい
林:料理にはまってましてね
毛:料理。いいじゃないですか
林:家で作れる料理でね
毛:ほうほう
林:少し珍しいメニューを教えてほしいんですよ
毛:珍しいメニュー
林:そう
毛:なんで?
林:家族を喜ばせたい
毛:「お父さんこんな料理作れんの〜すご〜い!」みたいな
林:そういうのそういうの
毛:はいはいはい
林:なんかあります?
毛:ありますよ
林:何?
毛:鍋なんていいんじゃないですか?
林:鍋?
毛:ぼくはもうほんまに鍋が好きでね〜
林:鍋が好き
毛:年中鍋食べてますからね
林:鍋を?
毛:ぼくくらいになりますと
林:ほう
毛:夏でも鍋全然いけますからね
林:あんなん食べれます?
毛:普通みなさんね
林:うん
毛:冬場に鍋食べるじゃないですか
林:みんな!? いつから?
毛:何が?
林:みんな鍋食べてんの!?
毛:おまえも食べとるやないか
林:ぼくは食べてないですよ。鍋は
毛:食べてるやん
林:いや〜ぼくにはちょっと硬くて無理ですね〜
毛:何が?
林:鍋って硬いじゃないですか
毛:食べるのは鍋の実ぃや
林:鍋の実ぃ!?

毛:鍋の中に入ってる肉とか魚とか野菜ですよ
林:土鍋ごとはいかへんの?
毛:あたりまえや
林:「鍋食べる」言うから
毛:歯ないやろみんな。そんなことしてたら
林:ほんで何?珍しい鍋料理があんの?
毛:使う肉が珍しい鍋があってね
林:「肉が珍しい」というと?
毛:牛でも豚でもないんやけど
林:ほうほう
毛:ただね
林:何?
毛:肉の名前が分からへん
林:なんで?
毛:3文字の名前なんやけど
林:3文字?
毛:そうやねん
林:「牛でも豚でもない」言うたから鳥思うたけど
毛:鳥だと2文字やからね
林:ほんならあれか
毛:何?
林:かしわ
毛:かしわ?
林:ニワトリ
毛:どっちやねん
林:ニワトリがかしわで
毛:うん
林:かしわがニワトリ
毛:どういうこと?
林:生きてる間がニワトリ
毛:はぁ
林:死んだら戒名かいみょうがかしわ
毛:なんて?
林:だから
毛:うん
林:生きてる間がニワトリ
毛:それは分かるよ
林:死んだら戒名がかしわ
毛:「戒名」って
林:「戒名」って分かります?
毛:亡くなった方に付ける名前ですよね
林:ニワトリもお亡くなりになられたら
毛:「お亡くなりに」て
林:戒名つくやろ?
毛:「戒名」とは言わないですけどね
林:戒名やないか。亡くなったニワトリに付ける名前なんやから
毛:ほんで最近,鶏肉を「かしわ」と呼ぶ人も少ないですけどね
林:あえて「かしわ」と呼べば3文字になるやん
毛:でも鶏肉ではございません
林:ほんならなんの肉?
毛:その肉の名前は
林:うん
毛:生きてる間が3文字
林:ぼくの言い方真似してない?
毛:生きてる間が3文字
林:それは分かってんねん
毛:死んだら戒名が2文字。さて,何?
林:なんでクイズ形式やねん
毛:それは
林:肉の名前を言うてくれ
毛:文字数だけしか覚えてないからや
林:どういうことやねん
毛:何が?
林:肉の名前の文字数だけ覚えてるなんてことある?
毛:たま〜にしかやらん料理やから
林:そうかもしらんけど
毛:なかなか覚えられへんねん
林:ほんならとりあえず
毛:はいはい
林:作り方は?
毛:作り方ね
林:覚えてんの?
毛:それは覚えてますよ
林:どうやってやんの?
毛:鉄板を火にかけて
林:鉄板!?
毛:鉄板や
林:「鍋」言うたやん
毛:鍋やけど鉄板なんですよこれが
林:どういうことやねん
毛:珍しいやろ?
林:珍しいけど
毛:鉄板で
林:鉄板で?

毛:肉を焼く
林:焼肉やないか
毛:ざっくり言うたら焼肉やけど
林:焼肉なんてめちゃめちゃ普通やん
毛:細かいところが全然違うんですよ
林:その細かいとこを説明してくれな
毛:どっから説明したらええの?
林:全部や!
毛:全部!?
林:俺はその料理知らんねん
毛:うん
林:初心者や
毛:まぁまぁそうやけどね
林:1から10まで細かく教えてもらわな分からへんねん
毛:ほんならまず
林:まず?
毛:テーブルにやな
林:テーブルに
毛:新聞紙を敷いて
林:何新聞?
毛:え?
林:何新聞を敷いたらええの
毛:どこの新聞でもいいんですよそれは
林:おまえは慣れてるから「何新聞でもええ」言うけど
毛:ほんまに何新聞でもええねん
林:「初心者や」言うてるやん

毛:家にある新聞でええねん
林:新聞はもうとってないからないのよ
毛:ないの?
林:だから「何新聞を買ってきたらいいのか」って聞いてるんですよ
毛:わざわざ買わんでええよ
林:なんでやねん!
毛:何が
林:「まず新聞敷く」言うたやないか
毛:それは油でベトベトにならんように敷くだけやから
林:それならそうと言うてくれ。適当なもん敷くから
毛:だいたい分かるやろ言わんでも
林:「初心者や!」言うてるやん
毛:ほんなら油でテーブルがベトベトにならんように敷物を敷いてやな
林:敷物敷いて
毛:鉄板に火をつける
林:はいはい
毛:火のつけ方は分かる?
林:そんなもん誰でも分かるわ!
毛:・・・・・・
林:ほんで?
毛:ほんなら油をこうしてジュージュージューと塗る
林:ほんまに?
毛:何が?
林:油を?
毛:こうしてジュージュージューと塗る
林:おまえは慣れてるから手でジュージュージューと塗れるけど
毛:手で!?
林:初心者には無理やろ
毛:手で塗るわけないやろ
林:「こうして塗る」言うたやん
毛:これは油をはけで塗るジェスチャーや
林:普通にはけで塗るんかいな
毛:あたりまえや
林:「ちゃんと教えてくれ」言うてるやん
毛:分かるやろだいたい
林:初心者やねん俺は
毛:はけに油をつけまして
林:はけに油をつけまして
毛:油をジュージュージューと塗りますと
林:油をジュージュージューと塗りますと
毛:やがて油が踊りだす
林:何!?
毛:やがて油が踊りだす
林:うちにはそんなファンキーな油ないなぁ
毛:「ファンキーな油」ってなんやねん
林:踊りだすんやろ?
毛:「油がはねる」ということや
林:専門用語で説明すんなて
毛:専門用語ちゃうやろ
林:「初心者や」言うてるやろ
毛:そしたら肉をのせて
林:肉をのせて
毛:裏が焼けたら表を焼き
林:ほう
毛:表が焼けたら裏を焼く
林:肉の裏表はどうやって見分けんの?
毛:どっちでもええねん
林:どっちでもええことあるか
毛:なんでやねん
林:裏が焼けたら表を焼くんやろ?
毛:そうや
林:どっちが表でどっちが裏か分からんかったらどっち先にのせたらええか分からんやろ

毛:鉄板に最初に乗せたほうが表で
林:え?
毛:焼けていないほうを裏とするのか
林:うん
毛:最初に乗せたほうが裏で
林:はぁはぁ
毛:焼けていないほうを表とするのかは
林:おぉ
毛:自分次第や!
林:自分次第!?
毛:そうや
林:なんで急にかっこいいこと言うてんねん
毛:ほんで焼けたらタレをつけて食べるだけ
林:それ焼肉やん!
毛:「肉が珍しい」言うてるやん
林:でもその肉の名前分らへんねやろ?
毛:そこが一番の問題や
林:おまえが思い出してくれたらええだけの話やないか
毛:実はぼくね
林:何?
毛:こないだその肉を肉屋に買いに行きましてね
林:肉の名前が分からん状態で?
毛:そうなんですよ
林:どうやって注文すんの?その状態で
毛:原っぱでヒゲ生やしてメ〜メ〜鳴いてる肉ありますか?
林:なんちゅう注文の仕方してんねん
毛:肉の名前分からへんねやからしゃあないやないか
林:肉の生前の鳴き声は覚えてんの?
毛:「生前」て
林:ほんで原っぱでヒゲ生やしてメ〜メ〜鳴いてる肉?
毛:そうそう
林:それヤギやろ?
毛:ヤギ?
林:「珍しいメニュー」言うてもヤギ料理はちょっと・・・
毛:ヤギの肉ちゃうよ
林:ちゃうの?
毛:肉屋さんにも言われましてね
林:なんて?
毛:「ヤギの肉はないけどこれならありますよ」と
林:おぉ!なんの肉?
毛:ぼくも聞いたんですわ
林:なんて?
毛:「その肉の生前の鳴き声は?」と
林:「生前」て
毛:そしたらね
林:どんな鳴き声?
毛:ひ〜つじ!ひ〜つじ!
林:羊やないか!
毛:羊や!思い出した!
林:「ひ〜つじ!ひ〜つじ!」というのはいとし師匠がそう言うてるだけでね
毛:いとし・こいしの夢路いとし師匠が漫才でよう言うてはって
林:実際の羊は「ひ〜つじ!ひ〜つじ!」とは鳴かんやろ
毛:肉屋のおっちゃんもいとこい師匠のファンなんかな〜
林:でも肉の名前は分かったやん
毛:生きてる間は
林:羊!
毛:死んだら戒名が
:ラム!
毛:「ジンギスカン鍋」という料理なんですけどね
林:一応鍋料理というカテゴリーに入ってんのかなあれは
毛:「鍋」やけど羊の肉を焼いて食べる
林:はいはい
毛:これやったら普段あんまりせえへんから家族も喜んでくれるんちゃう?
林:それやったら
毛:今晩やったらええやん
林:夕べ食べた
毛:もうええわ

リメイクのポイント

当時は「ジンギスカン」という料理自体がまだ珍しい時代で,それが「どんな料理かを説明する」というネタでしたが,今はもうみんなが知っている料理なので,「『家で作る』という点では比較的珍しい料理」という設定に変更しました。そして,「ジンギスカンがどんな料理か」を説明するのではなく,「何の肉でやるかを思い出せないけどこういう料理だ」という説明の形に変更してみました

「かしわ」という言い方は今の時代通じない可能性が高いのでカットしたいところですが,「肉の戒名」というのがこのネタの一つのキーポイントなので,「かしわ」や「戒名」という言葉の意味を説明するという形で対応しました

羊の肉について説明する部分は,「肉屋に買いに行く」という設定を追加しました。「ひ〜つじ!ひ〜つじ!」は,いとしさん以外の人が言ってもあまりウケないボケだと思いますが,結構人気のあるボケなので,「夢路いとし師匠が漫才でよう言うてはった」というセリフをあえて入れることによって活かせるのではないかと考えました。カバー漫才の場合,元ネタの漫才師の名前をあえて入れるのも喜ばれるのではないかと思います

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THE MANZAI magazine
❶「自分たちにしかできない漫才スタイル」を確立する方法 ❷しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる ❸「漫才台本の書き方」と「オチのつけ方」 ➍ボケやツッコミってどのようにして思いつくものなの? ❺「言い訳-関東芸人はなぜM-1で勝てないのか-」は"現代漫才論"ではない-ナイツ塙さんが何を「言い訳」しているのかが分かれば,関東芸人がしゃべくり漫才でM-1王者になる道が見えてくる- ❻漫才詩集「38」

フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔  出演: おせつときょうた

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