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漫才論| ¹²⁰[M-1グランプリ2021] 突き抜けた「発想」をもってしても, 突き抜けた「バカ」を制することはできないのか❓

今年のM-1では,突き抜けた「バカ」の脅威的な破壊力を見せつけられましたが,突き抜けた「発想」をもってしても,突き抜けた「バカ」を制することはできないのでしょうか?実際今大会では,「バカ」ではなく「発想」で勝負したコンビのがほうが点数が伸びなかった,そんな印象を受けました。原因は,「うまさ」が足りなかったからではないかと思います

私は完全に「バカ」よりも「発想」に感動するタイプなので,自分の中での上位コンビは,M-1の結果とはまったく違いました。そこで今回は,私にとっての上位4組を挙げつつ,「突き抜けた『発想』で突き抜けた『バカ』を制する方法」について書いて書いてみたいと思います

「発想」が突き抜けていたコンビ "ベスト4"

4位:モグライダー

「モグライダーこそ突き抜けた『バカ』だ」と思っていましたが,今回はちょっと違いました。全体的には「バカ」と言えば「バカ」なんですが,「美川憲一さんが『さそり座の女』を歌い出す直前に,毎回星座と性別を聞いてくる輩がいる」というものすごい「発想」で貫かれていて,これはもう「発想」が「バカ」を上回るネタだと思います。毎回やってくる「いいえ私は♪ さそり座の女〜♫」は絶対におもしろいですし,歌い出す直前までの「『いいえ私は♪』って歌ってくれ」という期待感もものすごいです。モグライダーが最終決戦に残れなかったのは「トップバッターだったことだけ」と言っても過言ではないほどいい出来だったと思います

ほぼ毎回問題になりますが,いいかげん「トップバッター問題」は解決してほしいです。「人生、変えてくれ。」とうたうのであればなおのこと

3位:ロングコートダディ

「『ワニ』に生まれ変わりたい人が『肉うどん』に生まれ変わる」という発想がすごかったです。しりとりの「ワニ→肉うどん」の流れは最高でした!このネタはそもそも,「『ワニ』に生まれ変わりたい」自体がボケっぽいのにそれをすんなり受け入れ,そこから「『肉うどん』に生まれ変わる」という意味不明な展開でめちゃくちゃ驚くわりにすんなり受け入れて話が進んでいるところがおもしろいです。しかも,「肉うどん」という設定によって,肉うどん部分だけめちゃくちゃ「日常的な話」が織り込まれる格好になり,「ただの奇想天外な話」ではなくなんとなく「身近な話」のようにも思わせているところがすごいです

ロングコートダディは決して漫才がうまくないわけではありませんが,突き抜けてうまいタイプでもありません。このゆったりとしたかんじが魅力ではあるものの,巨人さんが言っていた「センターマイクから離れすぎ」の件も含め,「うまさ」でみせる要素がもっと強ければ最終決戦に残っていたのではないかと思いました

2位:オズワルド

一本目は,「君の友達俺に一人くれないかな」という「『共通の友達』という概念のない人」という強い「発想」で貫かれているおもしろいネタでした。オズワルドは,ボケでもツッコミでも笑いが起こるところが強みで,この記事のテーマでもある「うまさ」も十分です。ゆったり話しているので「うまさ」が見えにくいかもしれませんが,一人が話し終えてからもう一人が始めるまでの速さ(テンポ)がかなり速く,相当うまいです

敗因は,多くの方が感じていることだ思いますが,1本目と比べて2本目のネタがかなり弱かったこと。「発想」で勝負するおもしろいネタを2本目そろえるのはやはり,かなりハードルが高いのだと思います

1位:真空ジェシカ

個人的には真空ジェシカのネタが断トツで好きでした!これまで挙げた3組は,一つの強い「発想」に貫かれた設定のネタでしたが,真空ジェシカの場合は,「一日市長」という普通の設定で,ボケとツッコミ一つ一つの「発想」がいい,「センス」がいいというかんじです。ボケだけで笑いが起こる部分も多かったですし,分かりにくいボケなら必ずツッコミで説明し,少し弱めのボケならセンスのいいツッコミで笑いを起こしていました。しかも,駒澤大学のたすきでネタの前半と後半をつないでいて,すごかったですね(ちなみに私が一番好きだったフレーズは,「おばあちゃんは全員文系だと思ってた」です)

真空ジェシカも掛け合いのテンポはかなりいいですが,「うまさ」は見えにくいコンビだと思います。しゃべり方にも癖があるので余計に(少し聞き取りづらく感じる部分もあったかもしれません)「ネタが難しかった」という意見が結構あって,点数も思ったより伸びませんでした(それにしてもこの点数の低さは個人的にはかなり不満でした)確かに「難しい」と思えるボケのチョイスもありましたが,伝わりにくいボケはちゃんとツッコミで説明を加えていて,かなり丁寧に作られたネタだと思います。審査員のみなさんもかなり褒めていたわりに点数が伸びなかったのには,ネタ順も関係があると思います。オズワルドと順番が逆だったら,もっと伸びていたような気がします

突き抜けた「発想」で
突き抜けた「バカ」を制する方法

突き抜けた「バカ」は,ハマればものすごく強いネタではなくても「勢い」で2本目も乗り切れるパターンもありますが,「発想」で勝負する場合は「勢いで乗り切る」という手がほぼ使えないため,2本目もそこそこ強いネタがないと不利です。1本目と同じほど強いネタをそろえるのは難しいことかもしれませんが,「明らかに弱い」と感じさせてしまうネタだと,「勢い」に勝つのが厳しくなります

それに加えて必要なのは,しゃべりの「うまさ」,掛け合いの「うまさ」です。真空ジェシカもオズワルドも「掛け合い」はうまいですが,「しゃべり」は特別うまいタイプではないと思います。「しゃべり」で突き抜けていたら,結果は違っていたかもしれません

突き抜けた「バカ」の勢いに打ち勝つために必要なのは,「強いネタ」と「うまさ」だと思います。これがそろっていれば(これをそろえるのが難しいんですが・・・)突き抜けた「バカ」にも余裕で勝てるような気がします

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フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔  出演: おせつときょうた

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あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】