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地域の「先生」としてのNPO

※本記事は、藤沢市市民活動支援施設情報誌「F-wave」2022年9月号の特集記事を転載したものです。紙面全体は以下のリンクよりご覧いただけます。

地域の“先生”として…海浜植物観察会を実施!

多くの学校が夏休みに入ったばかりの週末、NPO 法人ゆい(以下、ゆい)の理事長、荒井三七雄さんが案内役・解説役を務め、県立横浜緑ケ丘高校化学生物研究同好会の海浜植物観察会が実施されました。2 名の学生、2 名の先生が参加したこの観察会。

荒井さんは参加した学生に向かって「途中で気になる事や聞きたいことがありましたら何でも私に聞いてください」と語り掛け、観察する植物のもとに移動して、実物を見ながら説明を進めていきました。

市民活動団体は、活動による知識や知見を積み上げてきており、社会や地域、次の世代に伝えることも大事な活動です。今号では、観察会に同行して、その様子を取材してきました。

ゆいは長年湘南海岸の海浜植物の保護活動に携わっており、ハマボウフウなどの海浜植物の発芽・育苗や植栽会なども実施してきました。発芽に関して様々な条件を試すことや、各地の団体や大学との連携で遺伝子の差異を調べるなど、研究等に資する活動も数多く行っています。 

その日の午前、辻堂海浜公園内の在来種の観察や地形の確認を終えると、海岸へ出て海浜植物の観察を始めました。

ハマボウフウの花    

何でも見たり、嗅いだり、触ってみることが大事

荒井さんは、ある植物については葉っぱをちぎってにおいを嗅ぐ、ある植物はルーペを使って葉の裏側を見るなど、違ったアプローチを勧めます。

荒井さん曰く、「何でも見たり、嗅いだり、触ってみることが大事だと思います」とのことで、実際にそれぞれの植物ごとの特徴を体感できるように説明を進めていきました。個別の植物だけではなく、生態系や海浜植物の環境中での役割についても丁寧に解説していきます。

「砂を抱く、という表現をしますが、コウボウムギという植物は優占種として他の植物より先に根付き、砂浜を固めます。そこに他の植物が生え、草地となると海砂が飛び散りにくくなり、砂浜の衰退を防ぐことにもつながります」と荒井さんは説明します。

辻堂海岸のサイクリングロードと砂防林の間には、同種を中心として海浜植物の草地が存在しており、街中の草地とは異なる植生になっていました。観察会の時期はちょうどハマボウフウが種を落とす時期で、学生たちは砂浜に落ちた種を採取して、午前の内容を終えました。

午後は近場にある茅ヶ崎市のコミュニティ施設での、座学の時間を設定していました。同行した近藤先生は砂浜の衰退に関するお話をして、周辺にある構造物のヘッドランドの限界や危険性についても触れました。

近藤先生は県立横浜緑ケ丘高校の先生ではなく、教科研究会で会った同校の笹野先生にゆいの活動に関連する研究を勧め、観察会が実現したとのことです。

ご本人もゆいの活動に賛同して会員になっており、学生たちには「教科書で学ぶだけでなく、直接生物のいる場所に行く機会をとらえてほしい」と語りかけていました。

荒井さんは活動の経緯や、これまでの研究者とのやりとり、今後展開する事業について説明を行い、「まずは先行研究を見てください。営利が絡まないと未知なものも多く残っています」と語りました。

観察会は同好会の研究内容の検討も兼ねており、顧問の笹野先生からは「砂浜の保全や個別の植物に関する研究が検討できるかと思います」とのことでした。

参加した学生も、「植物が砂を固めることで、砂浜の保全や緑化につながることを初めて知った」と語り、別の学生も「自分の成果が形となって見えるので、ただ調べるのではなく実際に育てていきたい」と感想を述べました。採取した種の発芽や、今後の協力などについて話して観察会は終了となりました。

今回の事例では、活動から団体が蓄積してきた知識や経験も、学術研究への貢献や学生の成長などにつながる様子が見られました。

近年は県立横浜緑ケ丘高校も指定されている文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールなど、学生研究を推進する取り組みも広がっており、そうした動きにNPO が関わって行くことで、地域や社会の中での存在感も増していくように思います。

閉じた活動とせず次代につなげていくことの価値を感じることができる観察会でした。

団体紹介

NPO法人 ゆい
【設立】 2004年
【代表】 荒井 三七雄  さん
【HP】      https://www.npoyuhi.org/
【連絡先】090-3914-0062
NPO法人ゆいは、湘南の浜辺の景観を愛し、過酷な環境で生きている海浜植物を慈しみ、ふれあいながら、生物多様性の保護と持続可能な生態系保護に寄与することを目的として活動する団体です。海浜植物を保全することの有為性の認識に基づき、湘南海岸に限らず調査・試験をおこないつつ、現場主義・実践を通して就学前の年齢から大学院生・成人への啓発活動に応じています。また行政・企業等の要望に応じています。


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