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大倉舜二というオヤジ。

写真家・大倉舜二。言わずもがな僕の師匠だ。写真だけじゃない、もはや人生の師、いや完全にオヤジだ。オヤジそのもの。
そんな大倉舜二は、2015年に他界した。僕との約束を守らなかったから僕は許してないんだ。

ねぇ、おやっさん。聞こえてますか?僕、今年でおやっさんとこを卒業して25年になるんです。知ってましたか?弟子期間の6年半を入れるとね、もう30年を過ぎちゃうんですよ、早いものですね・・・。昨日ね、写真集が届いたんです。そう、作りました写真集。おやっさんは「写真家は印刷して本にしていっちょ前だ」ってずっと言ってた。確かにそう。ずっと背中で見せつづけてくれた。でもね、僕にはまだ分からなかったんだよ。作品としてね、写真展でオリジナルプリントを見せる事が正義だと思ってやっていたからね。でもでも、今回どこまでどっぷり浸かるんだろう、頭のてっぺんまで浸かってもう息ができないんじゃないか、そんな想いをしながら作品を創ったんです。そう、女優・夏目響さんと一緒に作った作品。『Intangible』と名付けたんだ、意味は無形という。形のないものを写真に写してみたい、その一心でした。デジタル創生期、おやっさん所にカメラとそのプリントを持って行きましたね。おやっさんなんて言ったか覚えてる?「なんだ、おまえ、ついに写真家のくせに虚業家になったのか。実体がないのは、虚業だぞ!」って。もう何言ってんの?って思いましたよ、でもね。ハッとするんです。今まではフィルムがあったから物として残る、そう実業だったんだ、とね。虚業家という響もインチキ臭くて笑えるんだけど、やっぱり実になる方がいい。だから作品はフィルムにしようって思えたんですよ。そして今回もやっぱりローライ。二眼レフを引っ張りだしました。だって、僕が16歳の時に初めてみたおやっさんはね、めちゃめちゃカッコ良く、ローライを持ってたんだよ。ズルイわー。

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それから何年後だったんだろう。やっぱりローライを手に入れたんですよ。でもオヤジには見せに行かなかった。だってもうここに居なかったんだよ、オヤジはさ。でもね、ずっと話して聴かせてくれたように、3.5Fにしたんだ。しかもプラナー75mmのね。同じ世界を覗きたいしそこで勝負してみたいって思ってたからね。勝負なんて言うと「バッカヤロウ、てめー」って言うでしょう。でも勝負。だってもうオヤジはこの世では撮れないから。追いつくチャンスなんだ。

この作品、Intangibleはね、やっぱり写真展でのオリジナルプリントを魅せるだけにしようって最初思ってたんだ。でもね、僕自身、あの時あの狂気を封じ込めないといけないって思って。それで本にしようと思ったんだ。オヤジのあの言葉はその時思い出さなかった。でもね。本を作っている、印刷立ち会いしている、そして本が出来上がって手元に来たときにね、おやっさんがニヤニヤ笑ってたんだよ。事務所にいる僕との記念写真。多分唯一の記念写真のオヤジがね。あ、やられた・・・って。だから、真っ先にオヤジに見せたかった。でも見せられないじゃんか。いつも傍にいるのは知ってるよ。あと、ロッコールの姐さんのとこにも来てるのもさ。だから姐さんにできたてほやほやの写真集を見せにいったんだ。ねぇ、おやっさん。あの姐さんが、「おんなの写真で涙したの初めてだよ」って言ってくれた。おやっさんが写した作品でも言わなかったでしょ、姐さん。だから初めて写真集にサインしたとき、姐さんの名前を呼び捨てで書いたんだ。オヤジとの勝負が出来たって感じたから。ちょっと強がってみたけど、ごめんなさい。やっぱ僕の中ではずっとずっと、オヤジであってさ、大倉舜二なんだよ。1番好きなEMMAの作品は今観ても最高だし、すげーって思う。だけど失礼を承知でいわせてもらう。Intangibleでオヤジに並ばせてください。

ここからが勝負。ここからがスタート。

命日はちっとも覚えられない弟子ですが、だって僕の中ではまだ生きて傍にいるんだから。ねー、僕との約束覚えてますか?

「ふーきー、見舞いに来ないでいい。絶対帰るから」

守れない約束、ずっと待ってますから。僕はまだそっちには行かない。絶対に行かない。だから、写真集だけ持って行ってください。
おやっさん、ありがとうございます。あなたが居てくれなければ、今の僕はここに居ないのだから。

大倉舜二の弟子 / 写真家藤里一郎

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