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ブッカー賞受賞小説3作品とNHK音楽祭で聴いた「くるみ割り人形」について

ブッカー賞というのは1968年から始まったイギリスの文学賞で、今回、私が読んでみたのは、(1) 2018年の受賞作 アンナ・バーンズ著「ミルクマン」、(2) 2019年の受賞作 マーガレット・アトウッド著「誓願せいがん」、(3) 2020年の受賞作 ダグラス・シュチュアート著「シャギー・ペイン」、

そして、コンサートの予習として (4) ホフマン著「くるみ割り人形とねずみの王さま」を読み、 (5) NHK音楽祭にてチャイコフスキー作曲のバレエ音楽「くるみ割り人形」を聴いてきました。

(1) 「ミルクマン」

著者のアンナ・バーンズは1962年北アイルランド生まれ、この作品は18歳の女性が主人公、読み始めて2行目でミルクマンに衝撃的な事件が起き、そこから2週間さかのぼって何があったのか語られます。

主人公が「ミルクマン」につきまとわれたり、「メイビーBF(ボーイフレンド)」と付き合ったり、「あっちの宗教」と関わったり、妙な噂が流れたり、「こっちの宗教」と対立したり、いろいろな「暗黙のルール」を破って「めんどくさいゾーン」に落っこちたりもがいたり、

北アイルランド特有の歴史的、宗教的、主人公の地位的な事情も絡み、


38歳の女性が20年前を回想するように書かれています。


(2) 「誓願」

著者のマーガレット・アトウッドは1939年カナダ生まれの作家、この作品は1985年に発表された前作「侍女じじょの物語」の続編で、アメリカに誕生したディストピア社会が十数年後にどうなったかという話、

管理された階級や格差の規則にみな従っているように見えるけれど、運用にはほころびができ、監視をすり抜けて統制にあらがいます。

前作「侍女の物語」において「もしトラ(ンプが米国大統領に当選したら)」や「中絶禁止法」を予言したと話題になり、「誓願」においても本当に将来こうなるかもね、と思わせるのは、

マーガレット・アトウッドは小説を書いたり、テレビシリーズ化とするにあたり「人類史上前例のないできごとは作中に登場させない」という基本方針を貫いているから。


おば、娘たち複数の視点で書かれています。


(3)  「シャギー・ペイン」

著者のダグラス・シュチュアートは1976年スコットランド出身でアメリカ在住の作家、この作品はシングルマザーのアグネス・ペインと、その息子シャギー・ペインの話。

舞台は不景気だった1981年〜1992年頃の英国、低所得者向け高層アパートに住み、複雑な家庭環境でアルコール依存の母をひとりにできず離れられなくてヤングケアラーと化す息子、そんな下層社会においても「美しく身を飾る」母の価値観について語られ、

そして、シャギー・ペインのように過酷な少年時代を過ごし貧しかった作者自身は後にニューヨークでデザイナーとして活躍し、さらには作家としてはデビュー作でブッカー賞受賞。


三人称で5〜16歳の頃のことを書いています。


(4) 「くるみ割り人形とねずみの王さま」

著者のE・T・A・ホフマン(1776-1822)はドイツの法律家(大審院判事)、詩人で、画家で、音楽家で、作家。本名はE・T・・ホフマンなのですが音楽家としてモーツァルトに傾倒したことから、「(W)ヴィルヘルム」という名前を「(A)アマデウス」に代えてしまいます。

そんな、音楽好きなホフマンが1816年に書いたのが「くるみ割り人形とねずみの王さま」で、音楽好きが功を奏したのでしょうか、76年後、原作を簡潔にした版を元にチャイコフスキー(1840-1893)がバレエ音楽とします。

それが、1892年に初演された「くるみ割り人形」作品71。


原作の「くるみ割り人形とねずみの大さま」は、よく知られているバレエの「くるみ割り人形」よりも複雑です。

主人公の少女はマリー、人形の名前はクララ、原作が複雑となるのは中盤すぎ、バレエでは省略されている「くるみ割り人形の家族」が代々不格好な理由が語られるあたりから、

それは「ピルリパット姫と、魔女マウゼリンクスと、腕利きの時計師」のせいらしいのですが夢と現実、人と人形の境界があいまいになり、それはそれはややこしい物語となります。


この話の中で興味深いのは「菓子づくり殿」とはおそろしい権力で、それは「人間とは何か」と問い、「人間をなんにでも作り変えられる」力を持っているとのことで、

これは例えば、子どもたちへおいしそうなお菓子を与えたると子どもたちをコントロールできるということへの比喩でしょうか。

また、ドイツ語で「硬いくるみを割る」というのは「難題を解く」という言い回しだそうで、「くるみ割り人形とねずみの大さま」を読んで理解するということ自体がまさに「硬いくるみを割る」ことというふうに感じました。

そして、原作は引用も大人向け、例えばシェイクスピア「ジェームズ三世」のセリフがあったり、シラーが戦争英雄ジャンヌ・ダルクを描いた「オルレアンの乙女」についても語られたりします。


全知全能の透明人間の視点で書かれています。

行ってきたコンサートは、

(5) NHK音楽祭2023

2023年11月20日(月)19時、

場所は東京NHKホール、出演はNHK交響楽団、指揮者ジョン・アクセルロッド、東京少年少女合唱隊、プログラムは「チャイコフスキー/バレエ音楽『くるみ割り人形』 作品71 全曲」。


素晴らしい指揮と演奏でした、ジョン・アクセルロッドが堂々とした直立不動の仁王立ちで腕だけがカチカチと俊敏な時計の針のように力強くタクトで刻む、そんな大迫力の演奏場面がよかった。

聴いている私も、息を凝らし、お腹に力が入り、全身で演奏を感じ取りました。


最後に、

ジョン・アクセルロッドは静岡新聞社のインタビューで子どもたちへ次のようなメッセージを発信しています。

音楽は
リズムにおいて数学であり、
音符という名の言語です。

音楽は
作曲家の人生に関する歴史です。

音楽家が
心と体を使って演奏に集中する様子は
生物学、物理学、化学、心理学が混然一体
となっています。

また、ミスせず最高のパフォーマンスを
発揮する目的において
スポーツに通じるとも言えます。

静岡新聞社によるインタビューより


クラシック音楽初心者、60歳男性の視点で書きました。



読んでいただき、ありがとうございます。

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