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一句《都響卒 新聞紙舞う アークヒル》パトリシア・コパチンスカヤ

2023年3月27日(月)19時と、
翌、28日(火)19時、

サントリーホールで行われた東京都交響楽団の演奏会を2回、観てきました。


指揮は大野和士かずしさん、ソリストはパトリシア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン・声)、コンサートマスターは四方しかた恭子きょうこさん。

コンサートのタイトルは「リゲティの秘密-生誕100年記念-」、そして、2009年から都響ソロ・コンサートマスターを努めた四方さんが勇退されるということで、その最終ステージとなるコンサートです。


まず、作曲家リゲティや現代音楽が「難しい」とか「わからない、わかりにくい、にがて」という方も多いと思います。

最近読んだ本によると、昔(たぶん昭和)、

現代音楽イベントのようなものが開かれ 〜略〜 そのようなコンサートの観客は、作曲家或いは音楽大学の作曲科学生とその友人知人ばかりで、こうしたコンサートを私達はよく「内輪の我慢会」などと自嘲的に呼んでわらっていた。

西洋音楽論〜クラシックに狂気を聴け〜
森本恭正ゆきまささん著

と、ありますが、今もあまり変わりないでしょう。


そんな、あわや「我慢会」になりそうなリゲティ作品の演奏会が2日とも、コンサート終了後、カーテンコールを経て、会場の照明が灯された後も拍手が鳴り止まず、スタンディングオベーションが延々と続くという光景が見られたのです。

それは、ひとえにコパチンスカヤが参加したリゲティ作品の演奏がよかったからだと思います。


プログラム前半は、
 リゲティ作曲:
  ・虹(4分)
  ・ヴァイオリン協奏曲(28分)
  ・バラードとダンス(アンコール)

休憩をはさんで後半、
 バルトーク作曲:
  ・中国の不思議な役人(30分)
 リゲティ作曲:
  ・マカーブルの秘密(9分)


以下、「ヴァイオリン協奏曲」と「マカーブルの秘密」演奏の様子について書いておきます。

リゲティ作曲「ヴァイオリン協奏曲」

他の古典的なヴァイオリン協奏曲と何が違うかというと、(私のようにプログラム・ノートに書いてある学術的な特徴が聴き取れないとしても)ヴァイオリンの金属的な超高音、超速弾き、幅の広いグリッサンド、深いかすれた木管楽器のような音、アップとダウンする不思議な迫力あるピチカートなど、あまり見たこと、聴いたことがない技巧の数々が繰り広げられる演奏なのです。

あとは、他楽器とのシンクロ、掛け合い、浮遊感、グルーブ感、静寂、爆発のような音も魅力的でした、これらが素人の私にもひしひしと伝わってくるのはコパチンスカヤが身体全部で表現し、大野さんの指揮と都響がそれを支えているからでしょう。

第5楽章のラストに至っては、コントラバスは激しくチョッパー(っていうのかな、弦をつまんで指板にぶつける奏法)し、大太鼓が連打され、コパチンスカヤは指揮者の周辺をふらつき、ヴァイオリンのカデンツァでは口笛を吹き、「ラーラー、ナーナー」というようなハミングで歌い、足踏みまで入ってフィナーレです。

この口笛、ハミング、足踏みが見事なのです。装飾とか、遊びというレベルではなく、ヴァイオリンと溶け合っています。

すばらしい曲、すばらしい演奏でした。


リゲティ作曲の「マカーブルの秘密」

プログラム・ノートによると、「マカーブルの秘密」はリゲティがオペラ化した作品を演奏する直前に、ソプラノ歌手が急病となり、難易度が高く代役が見つからないので仕方なくトランペットで演奏したら、その出来がよかったので独立した作品となった9分の小曲ということです。

あらすじは「架空の国に、地獄の使者が『恒星がぶつかって世界が滅びる』と予言。しかし誰もまともに取り合わず、皆が自分の欲望に沿って行動を続ける」という話。


そういえば、似たようなストーリーの映画を少し前に見ました。
学者役もかっこいいディカプリオ。

話がそれました、戻します。


「マカーブルの秘密」演奏開始直前、ステージの様子はというと、小編成の管弦楽演奏者が席に着き(なぜか)新聞紙を開いて談話しています。

そこへ、頭にとさかを付け、ピエロみたいに白塗りの顔、パンダ目と口元を強調した化粧で、体に新聞紙を巻き付けたコパチンスカヤがステージに現れ、まるでニワトリの如く「コッ、コッ・・・」といった擬音と動作で歩き回ります。

演奏者は手にしていた新聞紙を空中で振ったり、投げ飛ばしたり、足踏みや発声もはじまり、騒然としてきたところをコパチンスカヤが静止。

ヴァイオリンの演奏が始まった後に、指揮者があわてて指揮台へ、転びそうになりながら上り、途中参加。

その後、演奏者がひとりづつ立ち上がってカウントダウンして(世界が滅びるのを現して?)みたり、コパチンスカヤは歌い、踊り、座り、横になり(自分の欲望に沿って行動しながら?)演奏します。

途中、日本語のセリフもいくつかありました。

四方さん:
 「沈黙は金!」

大野さん:
 「もう耐えられない!」

(初日)「サムライ・ジャパンの栗山監督、
 ボクを助けにここに来てー」

(2日目)「誰かボクに変わって
 ここで指揮してくれませんかー」

このようなドタバタでありながら、演奏の緊張感は保たれ、決めるところはピッタリ決めるというバランスがなんともステキでした。

(都響が公開しているリハーサル映像はこちら


四方さんの勇退

十数年、都響ソロ・コンサートマスターを努めた四方さんが都響主演公演での最終ステージということで、コンサートの終わりに花束贈呈です。

コパチンスカヤからは、身につけていた新聞紙が贈呈されます。

そんなコパチンスカヤ、

憎めません、

おちゃめでした。


読んでいただき、ありがとうございます。

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