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一句《サマーミューザ 立ち回り弾き ヴァイオリン》東京シティ・フィルのコンサート

現在、ミューザ川崎シンフォニーホールでは「フェスタサマーミューザKA WASAKI2023」という音楽祭が催され、7/22〜8/11の期間中、指揮者が解説するプレトークや、開演前に少人数編成で演奏されるプレコンサートなどのおまけ付きでほぼ毎日コンサートが開かれています。

2023年7月26日(水)は「新時代の先駆者たち〜アメリカン・オールスターズ〜」というタイトルで東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のコンサートでした。指揮者は高関健さん、ピアニストは横山幸雄さん。

14時開場

プレトークの時間となり、高関さんと横山さんがマイクを手にステージへ登場します。高関さんはシンプルな黒のスーツ姿、横山さんは白と黒の上下に赤いシャツ黒っぽいネクタイと目を引く素敵な装い。

〈プログラム〉
ガーシュウィン:
 1) パリのアメリカ人
 2) ラプソディ・イン・ブルー
〜休憩〜
バーンスタイン:
 3)「ウエスト・サイド物語」から
  「シンフォニック・ダンス」
 4) ディヴェルティメント

プログラムの4曲について、次のような解説がありました。

1) パリとアメリカ人について

最近発見されたガーシュウィンの自筆譜に基づいたバージョンを演奏します。演奏中に使われるタクシーホーン(「パフッ」というクラクション)は、ガーシュウィンが指定した音を忠実に再現させるために、高関さん自身が海外で購入してきたもの。

2) ラプソディ・イン・ブルーについて

高関さんから「この曲、簡単でしょ?」と問いかけられた横山さんは、ジャズ的だったり、頭の中でイメージした音と実際に弾いた音が一致しない場合があったり難しい部分もありますが、概ね音数が少なく愛好家レベルの方々でも取り組むことができる曲だろうと答えています。

3) シンフォニック・ダンスについて

バーンスタインが「ウエスト・サイド物語」へ曲のアイデアを出し、助手がオーケストレーションした、ということを高関さんはバーンスタイン本人から聞いたそうで、今回の演奏ではバーンスタインから直接指導を受けた際に「ここで怒った」とか「ここでスコアを投げた」という貴重な体験を思い出しながら指揮したいと語っていました。

4) ディベルティメントについて

バーンスタインはボストンで育ちハーバード大へ進んだ天才、その才能を認められ長く所属したのはニューヨークフィルハーモニー交響楽団、そして、62歳となった1980年にボストン交響楽団100周年に合わせて、故郷ボストンへの思いを込めてこの曲が発表されたそうです。


15時開演

タクシーホーン、横山さんが弾くニューヨーク・スタインウェイのピアノ、サックス、ドラムス、指鳴らし、「マンボ」の掛け声、などなど、ジャズを感じさせるとてもアメリカっぽい聴いていて熱くなる素晴らしい演奏でした。


話はコンサートから少し離れて、

このとき読んでいた本

ちょうど、このコンサートの前後に読んでいた本が、布施英利ひでとさんの著書「構図がわかれば絵画がわかる」という本です。

構図について垂直線・水平線、形・奥行き・次元、光・色がどういうふうに関わるのか、基本的な説明の中で次のような例が示されます。


ムンクの「叫び」と、

尾形光琳の「紅白梅図屏風」は、

上下を逆にするとよく似ている、

つまり、
ムンクは逆三角形の不安定な構図、
光琳は正三角形の安定した構図だと。

そのような構図の話は人体を描くときの話、仏像の話へと広がり、その先では構図から話が遠ざかってゆきます。

しかし私は、あえて「脱線」しようと思います。完璧な構図が美しいのではなく、そこに「破れ」がはいったときに、美は完成する。及ばずながら自分も、そんな世界を構築することに挑戦したいからです。

話のついでに、「破れ」の素晴らしい例を、ひとつ挙げましょう。王羲之おうぎしの書の『蘭亭序らんていじょ』です。

布施英利さんの著書
「構図がわかれば絵画がわかる」より

蘭亭序らんていじょ』とはこちら、

この「永和九年・・・」から始まり、途中間違えた字の上から太字で書き加えたり、修正ができない2文字を真っ黒に塗りつぶしたりしているのですが、完璧な美しい構図に「破れ」が生じるとはこういうことらしいのです。

この「破れ」付き『蘭亭序』の価値は「書のモナリザ」といえるくらいの作品だそうですが、そこで、そもそも「蘭亭序」とは何かということをご存知方も多いかと思いますが改めて説明いたしますと、昔々、永和9年(西暦353年)3月3日、中国の王羲之おうぎしら42名が「曲水の宴」という会を開き27編の詩が出来上がり、王がほろ酔いながらに、その場で序文を書いたものがこの作品です。(ただし、現在残っているのは巧妙に写し取られた複製のみ)

「曲水の宴」という催しについても説明します。この会は、水の流れる庭園でその流れのふちに参加者が座り、詩を読み、酒を飲み、出来上がった詩と酒を次々と下流へ渡してゆく宴会のこと(下図参照)。


以上のように、布施さんは「構図がわかれば絵画がわかる」という著書で美しい構図とは、その美しさに様々な矛盾のような「破れ」があってこそ「美は完成」するということを強調していました。


最後に、
コンサートの話へ戻ります。

アンコールについて

演奏者は総立ち、第1ヴァイオリンの方々はくるくる回りながら舞台袖まで踊り出してくるお祭り騒ぎのようなノリノリの演奏で締め。

音楽に真面目に取り組んだ演奏者の方々が、美を追求した上での「破れ」がこのお祭り騒ぎかもしれない、と思うと感動が込み上げてくるような「美の完成」ともいえるフィナーレでした。


読んでいただき、ありがとうございます。

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