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■ダンサー人生[第十ニ話]

あなたは、自分の中の「本当の姿」を知っていますか?そして、その本当の自分に変身する鍵を手に入れましたか?誰も知らない、本当の自分に会いたいですか?yesであれば、この話(ストーリー)をヒントに、本当の自分に会う鍵を見つけてください。■■■

 よさこいの踊り子は、演舞できるステージがあれば、それ以上の要求はないものだ。気持ちの中では、出演料を自ら支払ってでも、ステージで踊りたい。そんな心構えというか、よさこいに向ける姿勢というか、そんなハートが強く強く根付いている。ダンサーは踊ってこそ、ダンサーである。場所なんて関係ない。「よさこいを見たい」と要望をいただければ、どこにでも出向く。そんな気持ちで取り組んでいるものだ。

 公式イベントの場合は、ちゃんとした専用ステージを組んでいることが多いが、駐車場や、ホテルのパーティー会場、広い公園、学校の講堂、運動場などステージとして提供される場所は、さまざまである。今回決まったイベント会場は、地元の収穫祭イベントだった。他にも数チームの出演があり、新聞広告やポスターにも掲載されていた。「特別ゲスト、よさこいチーム〇〇演舞イベント」と言った文字が今でも鮮明に蘇る。私達は特別な存在だった。イベント会場での演舞をすると、どこから集まったのか分からないほどのたくさん人々が、演舞を見に来てくれる。しかし、私達はテレビに出演しているタレントでもなければ、有名人でもない。しかし、世間的なよさこい自体または、よさこいチームの知名度が上がったことによって、私達は特別な存在になった。普段の姿は、主婦、会社員、教師、学生などであるが、いったん衣装を纏い、集団になると、特別な存在になった。私達には、主催の方から、楽屋も用意され、食事も提供されることが多い。一日2回の演舞が一般的だった。休憩時間には、隊列やフオーメーション、振りの細かい動きをチェックする時間にあてられる。収穫祭に呼ばれる最大の目的は、会場の盛り上げである。収穫祭としての集客は安定しているが、盛り上げ役としては、買い物に来た方には、会場に長い時間留まってもらわなければいけない。このようなイベントは、地域と密着していてとても好きだ。大きな演舞ステージだけでは味わえない「人とのふれあい」などの魅力がある。そしてイベント主催の方から、感謝されると来年もイベント出演のご依頼をいただける。先にもお話したが、踊り子は、踊る機会が与えられれば、それだけで嬉しいのだ。こんな機会をいただけることはとても幸せなことだった。

 公式イベントの出演が決まってから、急ピッチに準備が始る。  

・演舞構成・メンバー選出・オーディション・振り落とし・個別練習・全体練習・他、演舞小物準備

など、準備することは山ほどある。イベント主催の都合もあるが、急に、イベント出演の依頼が来ることがある。こんな場合はチームメンバーに緊急召集の連絡があるくらいだ。私達は初めてのイベント出演を控え、急ピッチに準備が始まった。イベント開催は、2週間後であったが、実はさらに先のイベントについても、チームへのオファーがあり、すでにイベント出演が決まっていた。

 Nさんからの振り落としが終わり、早速通しで踊ることになった。この時点では、演舞のパートが決まっていないため、みんな同じ振付で通し練習をする。振り落としすぐのため、まだ振付を覚えきれていない人もいたが、覚えの早い人もいる。Nさんは、このポイントもチェックをしていて、メンバー選出の参考にしていたことを後から知らされた。このような地域イベントの場合、急に出演依頼をいただくことがよくあり、その際には、短期間での準備に間に合わせる必要があり、振り落としからの振付の練習期間が、極めて短くなるが、あくまでも与えられた期間内に仕上げなくてはいけない。通し練習が終わり、最後にオーディションが行われた。このオーディションでは、踊り子の立ち位置が決められる。よっぽどのことがない限り、この場に呼ばれたメンバー全員が参加する。しかし、どうしても振付が覚えられなかったり、イベントまでの、全体練習に全く参加出来ないなどの場合には、イベントメンバーから外れることになる。厳しい印象を持つかもしれないが、みんなプロとして必要なことだと覚悟して望んでいる。オーディションはいつも緊張する。みんな必死である。一生懸命振付を覚え、しっかりと個別に練習してくる人もいる。それは、言わずとも振りの仕上がりを見ればすぐにわかるようだ。Nさんはチームメンバー皆から信頼され、踊り子としても尊敬されていた。そのため、オーディションの結果には、異論が出ることはなくみんな納得できた。オーディションの後、決められたフオーメーションでの演舞構成の調整に入る。演舞は、見に来てくれる人々の目線で作り込む必要があるため、他のチーム演舞を見て勉強するのが一番よい。自分たちが、見に来た人の目線で、演舞を見てみると至らない点が山ほど出てくる。それらを抽出して個々に演舞内容の変更を行うのだ。この作業を何度も何度も繰り返す。時には、イベント当日の、本番直前に変更調整することもある。最後の最後まで、こだわり続けて演舞が創り上げられる。まさに「踊り子魂」の演舞である。

 初めてのイベントで、私は「踊り子魂」を誓った。

◆本当の自分に会うポイント◆      ① 「〇〇魂」とは、単にものごとを突き詰めることで得られるものではなく、それと一体になることをいう。

② 踊り子は、踊り子であることの覚悟を持たなければいけないものだと思う。そこには、演舞を演ずる者としての責任というか、使命みたいなものがあることがようやくわかった。

第十三話に続く

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