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「否定文におけるandとorの使い方/考え方」について:井出進学塾

こんにちは、井出進学塾(富士宮教材開発)です。

いくつかの教材で、おまけ問題として・・・

「『問:He is kind and smart. を否定文にしなさい』という問題で、
『He is not kind and smart.』は、あまりよくありません。
なぜ、あまりよくないか、説明できますか?」

・・・という問いかけをしています。

この件について解答、・・・というか、私の考えをここにまとめます。

問題を初見の方も、少し考えてから読んでいただけるとよいと思います。

参考として高校数学の「集合」の考え方の紹介から

まずは、もったいぶるようで申し訳ないですが、高校数学で勉強する「集合」の考え方から紹介します。

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このような図で考えて、「かつ」と「または」を区別します。

たとえば、「kind かつ smart」の場合、

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上図の斜線で示した部分を表し、

「kind または smart」という場合は、

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上図で、色塗りした部分すべてを表します。

この場合、彼は、①「やさしいけど、頭はよくない」、②「やさしくて頭がよい」、③「やさしくないけど、頭がよい」の3つの領域がふくまれます・・・

もっとも、「ことば」に関することなので、完全にいつでも一致するというわけではありませんが、役割分担として、and が「かつ」、or が「または」の役割を担(にな)うことが多いです。

「He is not kind and smart.」とすると、「kind and smart」は上図の②(「かつ」の図の斜線の部分)を否定することになります。

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そうすると、「彼は、やさしいけど頭はよくない。」、あるいは「彼はやさしくないけど頭はよい。・・・も、含むことになります。

状況によるし、その人自身の受け止め方にもよりますが、ふつう、このような文を表す場合、「彼は、やさしくないし、頭もよくない。」と伝えたいと考えられます。

図でいうと、「または」の図で色を付けた部分を否定することになるので、

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or を使って、「He is not kind or smart.」とした方がいいでしょう。


ただし、「He is not kind and smart.」は、あまりよくない、・・・と書きました。

まちがいではない、ということです。
そこらへんを、少し補足させていただきます。

昔の、英文法参考書では・・・

今回、私が提示したような問題で・・・

「and のある文を否定文にするときには、and を or に変えないといけない。」・・・と書いてありました。(本当ですよ。今でも、ネットなどで調べるとそういう説明が多いと思います。)

そんな単純な話ではないでしょうが、これを基本線に考えていくのはいいでしょう。

たとえば、「私は、飲酒も喫煙もしません。」は英語で・・・

「 I don't drink or smoke. 」です。

これを、「 I don't drink and smoke. 」にすると、
私は「飲酒と喫煙の両方をやっているわけではない。」というニュアンスに、確かになりそうですね。

ですから、否定文で and は使えないということではなく、有名なところでは、・・・

「 Don't drink and drive. (飲んだら乗るな。)」

これに or を使ってしまうと、
「 Don't drink or drive. (酒を飲んでも、運転してもいけない。)」、という意味になります。

状況次第ということですね。

たとえば、メジャーリーガーの大谷選手は右利きですが、「右投げ右打ち」ではありません。この場合、英語にすると「右投げ」と「右打ち」は and でつなげる方が適切な気がします。

また、カレーライス(curry and rise)が好きではないのなら、もちろん

「 I don't like curry and rise. 」で問題ないです。

ただし、カレーもお米のごはんも好きではないことを訴えたいのなら、

「 I don't like curry or rise. 」ということもあるでしょう。
(この意味でこの表現が正しいとかという意味ではなく、状況により、こういう表現を使う人もいるでしょう・・・ということです。)

「ことば」に関することなので、やはり、究極的には「役割分担論」に行きつきますし、状況やその人の主観なども大きく影響してくるものです。

ネイティブによっても、その人の考えや状況によるところもありますし、世間的に一般化しているところ以外には、なにせ「ことば」に関することなので、これが正解と決めつけてはいけないところが多いでしょう。

(関連記事として、「英単語のびみょうなちがい:club と team のちがいについて」を紹介しておきます。「クラブとチームの違い」で検索すると、トップに表示されるほどの人気記事です。微妙なニュアンスの違いに対する調べ方や考え方を紹介しております。〔長めの記事なので、そのつもりでどうぞ〕)

論点をはっきりさせるため今回は扱いませんでしたが、高校になって出てくる文法用語として「部分否定」「全部否定」・・・という考え方もあります。

これで解釈できることも多いでしょうが絶対ではありません。

その文が話されるということは、対話の中でのことなので、どういう言葉を受けてそれを言っているのか?また、どういう言い方でそれを言っているのか・・・に影響される要素の方が強いでしょう。

特にこれからの時代、ツイッターなどの短い言葉のやりとりで、真意を伝えられず誤解を与えてしまうことを経験することも多いでしょう。

英語は日本語にくらべあいまいさが少ないですが、それでも「ことば」なので、英語でもそういうことがあるだろう・・・という話につながっていきます。

役割分担論について

「かつ」「または」を最初にみましたが、ことばなので数学のように論理的にどうこうと解釈できる部分ばかりではありません。

主には「役割分担」(こういうことを伝えるためにはこの表現、別のことを伝えるためにはこの表現、など)が、その言語を現在のようなものにしている、という考え方です。

これについては、長くなりましたので今回はやめておきます。

〔部分否定〕の話題を出しましたので、それにからめ問題提起だけしておきましょう。

例として、「 both A and B 」は、〔部分否定〕として「両方とも~とはかぎらない」という意味を持つ場合と、〔全否定〕で「両方とも~ではない」という意味を持つ場合があります。

両者のあいまいさを避けるため、〔全否定〕の場合は「 neither A nor B 」にしたほうがよい、というのが一般的な解説です。
役割分担の一種ですね。

ここで、「いぬ」と「ねこ」について考えてみましょう。

先ほどの「ベン図」(集合のようすを表したものを「ベン図」といいます)で、「いぬ」と「ねこ」を表してみましょう。

かぶるところがないので、次のようになります。

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「いぬ」と「ねこ」は例ですが、この形だと both と neither の役割分担が必要ないものもけっこうありそうですね。(特に何かにつながる話ではないですが、いろいろ考えてみるとおもしろいですよ。)

最後に:話し手の考え方について

今回、表題の問題をふって、衝撃的な答え(というか意見)をいただきました。

内容の要旨は、

「全否定ではかわいそう、やさしくないけど頭がよい、頭がよくないけどやさしい、を残してあげたい」・・・というようなものでした。

まったくもって、おっしゃる通りです。

誰かが友人の男性について他の人に話すとき、「彼だって、かんぺきじゃないさ。」というようなニュアンスで、and を使った表現をすることも多いでしょう。

私たち日本人は、だいたいの人が謙虚(けんきょ)ですからね、
自分を主語にした、「 I am not ○○ and ○○. 」あるいは、
「 I am not ○〇 or ○○. 」なんかで考えると自然なニュアンスになるように思えます。

どちらにせよ話し手の考え方(主観)が大きいです。

表題の問題も、「全否定したらかわいそう」と感じた方は全面的に正しいですし、「やさしくもないし、頭もよくない」という答えを想定した私の方が、何かがまちがっているといえるかもしれませんね(笑)。

追記:せっかくなので、もう1問

次の英文の意味を考えましょう。

You can't have your cake and eat it.

can は助動詞といい動詞の前につき「~できる」という意味をくわえます。
can't なので「~できない」ですね。

今回の and の話で、わりとわかるのではと思います。

辞書にも例文としてのっている文ですが、なるべく辞書をみる前に自分で考えてみましょう。

むしろ、辞書にのっている訳例では、どういうことをいっている文かよくわからないと思います。どういう意味か伝わるような日本文に【意訳】してみることに挑戦してみましょう。

ヒントとしては、私も仕事で高校生が使っている英語教材をみる機会が多いですが、あまりこの文をみる機会はないですね。

内容からすると、もっとみる機会があってもおかしくないような言葉ですが、そこは日本とアメリカの文化のちがいが影響していると思います。


以上です。ありがとうございました。
よろしければコメントなど、お願いします。

執筆:井出進学塾(富士宮教材開発) 代表 井出真歩


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