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雨と芍薬

「雨のおとがきこえる
 雨がふっていたのだ」と
 あまりにもしみじみと彼が歌ったので
 庭の芍薬は静かにその花びらを開いた

 やわらかい薄紅は
 透明なしずくとの
 親和性において並ぶものとてなく
 惨くも溶けだした

 花は涙など流さない
 ただその芳香を打ちすえられて
 地に還っていくだけだ

 雨がふる
 雨がふる
 緑を鮮やかせ
 空を染め直し
 風を研きあげ
 季節をすすめていく

「雨があがるように」
 雨があがった後には
「しずかに死んでゆこう」
 溶け崩れ消えていく春の残骸


作中「」引用 八木重吉「雨」より

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