ギターアンプとIRの話(2)

続編です。1ではエレキギターで音が鳴るしくみ、アンプ持ち運びダルい、実際のアンプの音を学習するプロファイリング技術がすごい、という話しをしました。

最後のところをおさらいすると、ギターアンプはギターからの入力をいい感じに変換する関数であり、それを実機から学習することは原理的にはできそう、これはプロファイリング・アンプと呼ばれている。プロファイリング・アンプはKemperなどの高級機だけでなく、10,000円を切る廉価版でも十分なクオリティのものが出てきた、という話をしました。

で、ここからがさらに驚いたところです。プロファイリング・アンプは「ギターからの入力をスピーカーに出すまでのところ担当なんですが(正確にはプリアンプ部分のみでパワーアンプ部分の扱いはそれぞれ)、実際にレコーディングされる音は、それをスピーカーから出してマイクで拾った音です。なんとこの「スピーカーから出してマイクで拾う」部分も同じようにプロファイリングされていました…!これをImpulse Response略してIRと言うそうです。日本語だとインパルス応答。インパルスの訳は諦めたのでしょうか。

まとめるとこんな感じでしょうか。

ギター -> 信号x:がんばって演奏するところ

x -> アンプ -> x':プロファイリング・アンプ

x' -> スピーカー -> マイク -> x'':IR

このIRの部分、キャビネット・エミュレーターという名前でいかにもスピーカーで鳴らしましたっぽい音にする製品は以前から知られていました。しかしここも実機からデータ取ってくるやつがあったんですね…。製品としてはエフェクターの形のものから、DAWのプラグインまで色々あるようです。これはHOTONEというメーカーのものです。15000円くらいで買える。

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驚きは続きます。ギターアンプのスピーカーはCelestionというメーカーが定番です。Vintage 30とかGreenbackとか、ギタリストなら聞いたことがあるのではないでしょうか。なんと!CelestionがIRのデータを販売していました…。スピーカーの箱のタイプ、マイクの種類、マイクの位置など、さまざまなバージョンのIRデータが売っています。

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そりゃ本家が作ったらいいデータになりそうです。しかし、スピーカーメーカーが、スピーカーをデータにしたものを売っている!すごい時代になりました。実際に買って使ってみましたが、たしかにスピーカーやバージョンによって音が違います。僕は実際のスピーカーで録音した経験は多くないので正確にはわかりませんが、聴覚上は明らかに十分なクオリティというか、実機で取ったと言われても気が付かないと思いました。

ギターアンプは関数、スピーカーとマイクによる録音は関数。まあわかりますが、ここまであっけなく再現されてしまうとは。内部の仕組みはわからないですが、計算リソースの増大と機械学習の進化が寄与しているところはあるのでしょう。パターン認識の力がある種の閾値を超えたことを実感しますね…。

一方、自由度が増えることの弊害も感じます。これは持論ですが、自由度やパラメータが多すぎると迷っていい音が出せないんですよね。アンプも楽器なので、いい音を出すためには習熟が必要です。選択肢が多すぎると、鳴らし方を身につける前に挫折してしまいそうで。逆に今は真空管アンプを買いたくなってきました。Friedmanが欲しいなー。

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ということで、ギターアンプとIRの話でした。機材の話の続編はプロダクトデザインとギターの話でもしようかなあ。

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