ギターアンプとIRの話(1)

機材の話です。僕は一応(実際に弾いているので一応というエクスキューズを入れる必要はないと思うんですが…)ギタリストなので機材を買ったりします。この記事では、最近の機材のテクノロジー、特にギターアンプとIRがマジですごかった、という話を非ギタリスト向けに説明を交えてしていきます。

エレキギターの音を録音するまでのプロセス、なかなか多くの過程があります。1) 木と金属でできたエレキギター本体 2) 金属製の弦の振動を電気信号に変えるピックアップ 3) 信号をいい感じに処理するエフェクター 4) 信号を増幅していい感じに処理するプリアンプ 5) さらに信号を増幅するパワーアンプ 6) 増幅された信号を空気の振動、つまり音にするスピーカー 7) デカい音を出すスピーカーを物理的に保持するキャビネット 8) 音を拾うマイク 9) 録音する機材 という感じ。長いですね!

と、説明しておいてなんですが、エレキギター本体、ピックアップ、エフェクターの話は一旦置いておきます。これはこれで面白いのですが。さらにいうと、弦を指で押さえる具合やピックによる弦の弾き方がものすごく音に影響があるので面白いのですが、これも置いておきます。この記事では、プリアンプから録音する音までの機材でテクノロジーの進化があまりにすごかったという話をします。

昔の話

エレキギターを使う音楽ライブ演奏にはおおむね大音量が求められます。となると、電気信号を作れるデバイスというのはどうしてもサイズが大きくなってしまいます。

かつては、それなりにいい音を出そうとすると、ヘッド(プリアンプとパワーアンプ)、キャビネットというクソデカ機材を買うのが普通でした。ライブハウスでギタリストの後ろに積んであるアレです。デカい、重い、メンテが大変(真空管は消耗品です)と辛い道具なのですが、これがないとやはり満足なトーンが出ないわけです。もちろん家では鳴らせない。

これは定番 of 定番のヘッド、Marshall JCM800とキャビネットです。JCM900より好き。


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で、このデカくて重い黒い木箱をライブごとに運搬するのがバンドマンの週末の勤めの一つだったわけですが、正直運ぶのが大変です。デカくて邪魔だし。

みんなこれに苦しんでいたので、デジタルの機材を作るメーカーはこぞってアンプで起こる信号の変化をシミュレートする機材を作っていました。アンプ・シミュレーターと呼ばれるものです。最近のアンプ・シミューレーターはなかなかの精度で、なんと10000円しないくらいでかなりいい音が出ます。

僕はデジタルの機材から10年以上離れていたので、数年前に久々にアンプ・シミューレーターを買ったときは衝撃でした。これでレコーディングもいける!と。実際ライブではよく使っていました。しかし時代はさらに進化して「プロファイリング」という技術が登場します。実際のアンプの信号を学習して記録し、次から使えるようにしちゃったんですね…。

プロファイリング・アンプの衝撃

プロファイリング・アンプの王様、Kemperの説明がわかりやすいので引用します。

> プロファイリングを行うにはお手持ちのアンプをKemper Profiling Amplifierに繋ぎ、"record"ボタンを押すだけです。レコーディングのラインにインサートするだけで魔法のような動作をします。テスト信号がKemper Profiling Amplifierからアンプへと送られ、キャビネット前のマイクにレコーディングされます。プロファイリングの際にはギターを弾く必要さえありません。1分もしないうちにKemper Profiling AmplifierはアンプのDNAを獲得してしまうでしょう。

原理はなんとなく理解できます。要は入力の信号と出力の信号の関数なので、ギターが出す信号を聴覚上必要な程度に網羅できる信号を入力し、その出力への関数を作ればいいのでしょう。数学的にどうやればいいかはわかりませんが、計算資源さえあれば現実的な解が出せるかもしれない気はします。

で、実際これの音が素晴らしく良いみたいで、プロもどんどん使い始めました。まあ原理的に音がいいのは間違いなさそうです。

でもこれ25万円くらいするんですね。別に自分でプロファイリングしたいわけではないし、一個しかアンプ使わないからな…という人には若干オーバースペックです。しかも6キロもするので、電車移動はちょっとつらいです。

ということで登場したのがMooerのMicro Preampシリーズ。これは一つのアンプだけを使えるようにした小さなプロファイリング・アンプです。なんと10000円以下で買えます。重さに至っては100分の1以下です。

アンプ、Koch Power Toneです。25キログラム。中古で10万円くらい。昔試奏して気になっていたモデルです。

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小さなプロファイリング・アンプ、Mooer Power Zoneです。160グラム。税抜9050円。Koch Power Toneをプロファイリングしたとされています。トンマナもほのかに寄せてきた形跡があります。

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元ネタになったアンプ名をぼかしているあたりが罪の意識と著作権上の問題を感じますね。たぶんMooerの人たちが自分たちで入力と出力からデータを作って、それを小さい箱に積んでいるんでしょう。

ということでこれを買ってライブで使ってみました。ライブハウスに常に置いてあるRolandのジャズコーラスのリターンにつないで(あと前後に細かくいくつかエフェクター繋いで)ライブを何度かしました。自分で聴いてもいい感じの音が出るし、同業者の評判もいいので大満足です。

宅録もこれでしています。宅録ではさらに「IR」というテクノロジーを使うのですが、これがここ数年で一番の衝撃テクノロジーでした。これでプロのレコーディングとほとんど区別がつかないレベルの音が録れてしまう、しかも原理的にもそうなるのに納得せざるを得ない…。この話をしたかったのですが、準備段階の説明で終わっちゃいましたね。後編に続きます!

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