見出し画像

『映像研には手を出すな!』で考えたこと_002

 アニメ版『映像研には手を出すな!』を見て原作を読み、実写版に違和感を覚えた私は、その違和感を備忘録として残すこととした。ここでは、原作、アニメ版、実写版の人物描写や台詞、演出、構成などを改めて見直していく。【ネタバレ】全開ですが、お付き合い頂ければ幸いです。

用語のおさらい

 まずは、用語の事前説明をしよう。《生活》《妄想》《作品》だが、これらはこの作品で描かれる世界を示している。《生活》は、彼女達の普段の高校《生活》のことだ。《妄想》は、彼女たちの妄想で描かれる「最強の世界」のことである。《作品》は彼女たちが作り出す「最強の世界」、アニメーション作品そのものだ。
 次に、アニメーションの違いとして、セルアニメの流れを汲むアニメーションは〈*アニメ〉、ストップモーション・アニメーション、3DCGI、VFXは〈@アニメ〉とする。では、話を進めよう。

映像研表紙

気になったこと

 私が『映像研には手を出すな!』を初めて知ったのはアニメ版だ。原作を手にしたのはアニメが終わろうとする第11話目だった。そして、驚いた。原作1巻目の第1話とアニメ第一話で描かれた導入エピソードが違っていたのだ。アニメ版は、浅草氏の幼い頃のエピソード(原作第六話)がプロローグシーンとして描かれたあと、オープニングが始まる。オープニング後、原作第1話目のエピソードが始まった。

 ふと、原作がどのように分解され再構築されたのか、気になった。

 原作第1巻目に収録されているのは、第1話から第7話目だ。浅草氏と金森氏が、水崎氏と出会い、映像研設立と初作品『そのマチェットを強く握れ!』の上映までが描かれる。アニメ版は、その第1巻を第一話から第四話で物語る。では、実写版はどうかというと、なんと六話かけて物語った。すごい。

 ふと、オリジナルエピソードをどれだけ盛り込んだのか、気になった。

 原作は、漫画だ。当たり前だが、紙面上で《生活》と《妄想》と《作品》を描く。漫画では、《作品》や思い出、他の映像作品等は欄外が黒ベタのコマで描かれている。だが、《妄想》は《生活》と描きわけされておらず、シームレスだ。そういえば、幼い頃、地下に降りる階段が突然ダンジョンになったり、色違いのタイルをマグマのうえに浮く岩に見立て、生きて目的地に向かうミッションに挑んだりと、一瞬にして周囲が現実から《妄想》になったものだ。
 一方、アニメ版と実写版は《生活》と《妄想》と《作品》を描きわけていた。
ふと、生きている人間の描き方と妄想の描き方と作品となるアニメーションの描き方について、気になった。

 『映像研には手を出すな!』は原作もアニメ版も実写版も面白い。それぞれにそれぞれの面白さがある。原作を比較的忠実に描き、アニメ制作に対する熱量を膨らませたのがアニメ版だ。一方、実写版は、原作をなぞってはいるが、違う話になっていませんか?といえるぐらい様々な方向に膨らませている。

ふと、原作に忠実であれとは言わないが、原作を基にアニメ化や実写化するとはどういうことなのか、気になった。

 実写版では、〈@アニメ〉というよりもVFXで《妄想》が描かれていた。だが《作品》は〈*アニメ〉だ。映画版のロボットの描かれ方がどうなるのかモヤモヤする。

ふと、いや、ずっとだな。VFXとか、生きているガスマスクの少女とかモーションキャプチャとか。アニメーションとはなんぞや。

いや〜、気になることだらけだ。

キーワードでみる三者三様

 ということで、気になることをそれぞれ見ていこうと思う。まずは、手始めに第一話目に描かれたエピソードを挙げてみる。とはいうものの、あらすじ紹介するつもりはないので、順に描かれたエピソードを象徴するキーワードを勝手に選出して挙げていく。
 
原作(32ページ) 
お汁粉とずんだ餅/アニ研騒動/水崎氏救出/コインランドリー/金森氏の提案/初合作/設定が命からの《妄想》/お洗濯が終わりました 

アニメ版(オープニング、エンディング込みで約25分)
小学校六年生浅草氏の探検日記/雨の日のお留守番/オープニング/お汁粉とずんだ餅/アニ研騒動/水崎氏救出/コインランドリー/初合作/金森氏の提案/設定が命からの《妄想》/お洗濯が終わりました/エンドクレジット

実写版(オープニング、エンドクレジットとポストクレジットシーン込みで約24分)
芝浜高校第7地下水路エリア14、9号棟&12号棟連絡地下通路/何曜日が好き?/予算審議委員会(事前審議)と応援部/お汁粉とずんだ餅/GHQと水崎氏/音曲浴場/部活動停止期間中の応援部/野球部騒動/アニ研騒動/水崎氏河に飛び込む/コインランドリー/メカ合作からの《妄想》/金森氏の提案/エンドクレジット/ポストクレジットシーン

 次にキーワードのみで原作との差異を見ていこう。
 アニメ版は、二箇所だ。一つ目が、原作6話目の冒頭のシーンをアニメ版冒頭で描いたこと。二つ目が金森氏の提案の前に初合作が描かれたこと。
 実写版は、原作と同じところを挙げる方が早い。お汁粉とずんだ餅、アニ研騒動、コインランドリー、金森氏の提案の四つだけで、あとはオリジナルエピソードと原作を基にしたオリジナル展開である。キーワードの芝浜高校第7地下水路エリア14、9号棟&12号棟連絡地下通路でわかるように(わかってもらえればいいのだが)、すでに別物の様相だ。キーワードだけで、実写版の賑やかさが伝わってこないだろうか。

 もちろん、アニメ版もオリジナルエピソードもあるし、原作を基にしたオリジナル展開もある。実際、キーワードと同じであっても、アニメ版も実写版も同じ展開というわけではない。台詞の言い回しも演出もそれぞれの味がある。アニメ化、実写化の醍醐味というわけだ。

今回のまとめ

 今の段階での醍醐味。原作の出汁を濃く深くしたのがアニメ版だとしたら、実写版は出汁にいろいろ継ぎ足している気がする。


実写版『映像研には手を出すな!』公式サイトはこちら
アニメ版『映像研には手を出すな!』公式サイトはこちら
漫画『映像研には手を出すな!』の情報はこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?