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人生が充実すると創作は進まない

人生が充実すると創作は進まない。創作は自身の内側へと向かっていく行為なので、誰かと遊びに行ったり、イベントをしたりなど、ベクトルが外側へと向くようなことをしている間は何も生み出せない。さらに、しばらくの間はベクトルが向いた方向からは戻ってこられない。加速したままいきなりUターンはできないように、ブレーキを踏みながら緩やかに減速して、一度は完全に止まる必要がある。風景画展でベクトルが外側へと向いた私は今、緩やかに減速を試みているのだ。徐々に引きこもり、コミュニケーション能力を落としている(笑)刺激的な行動を避け、海岸でぼーっとする時間を増やさなければならない。


創作に必要なのは、空白だ。創作は夜中の方が集中できるとか、病んでいる方がいいものが作れるとかよく言うけれど、要は誰にも接触しない孤独が必要ということなのだろう。自身の内側へとベクトルを向けるためには、周囲が静かな夜中の方がやりやすいし、病んでいる方が他人との接触が減る。だから夜更かししがちになったり、病んでいる状態から抜け出せなくなったりするのだけど、他にも空白を作る方法を知った私は、早寝早起きをするようになったし、無駄に病んだりしなくなった。

初めのうちは空白が怖い。先のスケジュールが決まっていないと社会に必要とされていないように感じてしまうし、やることが決まっていないと何をしたらいいのかすら分からなかったりする。私たち人間は、未来のことを想像して不安になることで様々なリスクを回避し、他者と繋がり群れに属することで生き残ってきた生き物。つまり空白を作るということは、生存本能に抗うようなものなのだ。この生存本能に負けてしまうと、創作はちっとも進まない。忙しく日常が回り、充実感を得られてしまう。創作をしたければ、そんな充実感は勇気を持って振り払わなければならない。

でも、やっぱり充実感はほしい。だから私は、空白の時間を共に過ごす存在を増やした。充実感を得るためには、なにもわざわざ予定を作る必要はない。美味しいコーヒーを淹れたり、観葉植物の新芽に喜んだり、夕焼け空を眺めたり、干物屋のおじちゃんと話したり、そういったすぐ目の前で起きている出来事をちくいち拾い上げていくと、いつの間にか充実感を得ている。一見すると、予定がなくて暇そうでも、その暇の中にはたくさんの出来事が詰まっている。それらは人生が充実しすぎていると物足りなくて通り過ぎてしまうような、些細な充実感だ。

この充実感を知っていると、空白が怖くなくなる。放っておいても自然に空白が埋まっていくのが分かっているからだ。だから私は人生が充実しすぎないようになるべく空白を作り、自然に埋まっていくのを待っている。創作をしたければ、充実感を欲しがってはいけない。空白を作って、入ってくるものをただひたすら受け入れていくのだ。創作のヒントはあの孤独な夜のように、地味でパッとせず、静かに淡々と流れていく時の中にあるものだから。

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