第5歩「嘘も方便、お茶会に行く」

 (※2018年8月ハチモットで連載た記事の加筆修正版となります)
 
 
いよいよ私の人生をかけた夢が見えました、そうこれ!これしかない!
私は藤森建築で宿がしたい!

骨髄バンクのドナーとなった事をきっかけに、私は私を生きるという目標がみえました。
「よ~し、やるぞ~」
と、思いつつも日々の生活へと戻っていく私。
今までと違うのは、心の中に心地よくやる気がみなぎっている事。
どうかこの火を絶やさずに生きられますように。
骨髄バンクの手術が終わり、数日がたったころ、一本の電話がかかってきます。
 
「もしもし」
それは、泥舟WSでお世話になった茅野市美術館学芸員の前田さんでした。
「茅野市美術館の前田です、こんにちは。
大畑さん(旧姓)突然ですけど、お茶やってますか?」
「お茶・・・」
「今度、空飛ぶ泥舟をつかって藤森先生とWS参加者の方とでお茶会をしようという話になっていて」
「やっています、お茶」
「じゃあお願いできますか?」
「・・・ん、はい勿論、えーっと簡単な感じでもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ、それじゃあ宜しくお願いします」
「はい、こちらこそお願いします」
ガチャン、ツーツーツー
わー、やってないー、お茶。
この時の私はお茶を習い始めようとして、まずは野点(野外でお茶を点てる事)のお道具を揃えたところだったのです。
まだ茶筅も濡らした事のない状態!
おー、こわっ(自分が)
その電話からお茶会の日までは、10日くらいだったでしょうか。
この短い期間で人様にお茶を点てる、憧れの藤森さんにもお茶を点てる!
ピーーンチ!(自分で蒔いた種)
でも、チャーンス!

当時、穂高養生園で働く中に茶道の先生のお免状をもったスタッフがいました、一筋の希望!その名は、今村桂子さん。
お茶を習いたいと言って野点のお道具も一緒に選んでもらい、「これから始めようね」と言っていた矢先に、まさか、私が人前でお茶を点てるといいだすなんて!
お茶の世界の奥深さを知る桂子先生はどれほど驚いた事でしょうか・・・。
「本当に本当に、宜しくお願いします!!」と、一から手ほどきを受けます。
お稽古をはじめてびっくり!お茶って点てるだけじゃないんだ・・・
サー(血の気が引く音)
いやいや、やるしかないやん!
ササー(血の気が戻ってくる音)
と、その日から私はスタッフが集まる休憩室に特設お茶席を設け、来るスタッフ来るスタッフを呼び止めてはお茶を点てるのです。
まるで街角の占い師のように・・・。
お茶菓子付き占い師の評判は上々、口コミでわざわざお茶をのみに来てくれるスタッフや、1日に何回もお茶を飲んでくれるスタッフ。
そして様子を見に来ては手ほどきをしてくれる、桂子先生。
皆んなありがとう、お茶って楽しい。
とそんな事をしながら、あっと言う間にお茶会の日がやって来ました。
桂子先生からは、お茶会には必ず必ず白い靴下でいくように!
としっかり念を押されていたのを思い出し、
「本当にいるかな~?」と思いつつも途中で白い靴下を買って向かいます。
足元は眩しい白の靴下、お茶菓子は自信作のわらび餅!そして野点のお道具を持って、準備は整いました。

(野点のお道具、アフリカのカゴにヨモギ染めの布をあわせた自作のセット。)

会場である茅野市民館に建てた(浮かべた)空飛ぶ泥舟に到着。
藤森さんももう到着していて、まさに泥舟に登ろうとはしごに手をかけています。
(あ!)
藤森さんのズボンと靴の間からは、白い靴下がチラリ!
(よかったー、私も白の靴下にして~)
と、ほっとしていると。
(あ!!!)
その時、靴を脱いだ藤森さん。

土方の定番、足袋ソックス!!
(・・・うそや(笑)やっぱりいいな、藤森さん)
そして、私も続いてはしごを登ります。
泥舟の中には私と藤森さんの二人、時間よー止まれっ!(笑)
お客様がのぼって来るのを待っていると・・・
「お茶はどのくらいやっているの?」
(ドッキィーン)「一夜漬けです・・・(本当に、本当に)」
「ははは、わたしの建築も一夜漬けみたいなもんだよ」
(ジーン)
いやいや、勿論、藤森先生の建築は一夜漬けなどではないのですが、そんな風にさらりと言えてしまうところが、またまた魅力的。
※藤森さんは建築史家としても第一線で活躍されていて、その後に建築家としてデビューされました(神長官守矢資料館)その事から自分の建築は一夜漬けだと仰られたのですが、藤森建築をみれば明白!あれが一夜漬けなんて事はありえません。
その後はWS参加者のみなさまにお茶を点てさせてもらいます。
私のお茶は正真正銘の一夜漬け、お茶菓子の方をやたらすすめる自分がいるのでした(笑)

(さすが一夜漬け、立ってはいけない小指がたってます。)

藤森さん、WS参加のみなさま。
この場を借りて、ごめんなさい。
そしてお茶会から5年が過ぎた頃、茅野に移り住んだ私は、お茶のお教室に通っていました。(子供が小さく現在はおやすみ中)
お稽古すればするほど美しく奥が深いお茶の世界、今思えば、一夜漬けで人様にお茶を点ててお出しするなんて・・・
とんでもないお話でした。
 
 
嘘、ピンチ、そして素晴らしい経験だったお茶会。
藤森旅館へつづく道にいられる様に、精進の日々です。
さて、次回はいよいよ藤森さんに企画書をもって行ったお話。
告白のとき」です。
 

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