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張り子の中の虎

(地域情報誌フジマニ 2009年10月号 vol.43 掲載の編集長コラムから転載)

TROY

1.体力頑健 2.意志強固 3.できれば孤児がよい(大航海時代の船乗りの条件)
連日の営業。連夜の企画書制作。もう倒れるように眠るときは、風呂も歯磨きもしないまんまジーンズだけ脱いで意識が飛ぶ。しかも寝る直前まで悩んでいた原稿の内容を考えながら眠るもんだから、良くない夢ばかり見て目を覚ます。昨日は昔の彼女が出てくる面白くない夢を見た。目覚めると、眩しい光。煌煌と照る電灯。どうやら灯りも消さずに寝たようだ。ぼんやりとした頭で、夢の余韻を振り払いながらやるべき仕事のことを考える。ファクスを本当は昨日中に送っておくべきだった…今日は今日でアレとコレをやってアイツを片付けなきゃならない…ああクソッタレ畜生が。と短く汚い言葉を吐き出してトイレに行こうと立ってみたら、なんのまだ深夜2時だった。こいつはラッキーと、風呂に入って歯を磨いて仕事に取りかかる。締切の2週間も前になると始まる、そんな毎日。ただただ、三大欲求ばかりが増長していく日々の連続。昼と夜。理性と感情。思索と行動。くるくると変わる己が二面性をまざまざと見せつけられる日々が続く。こんな日々も今だけだ。自分が変われば世界が変わる。そう信じて歩く俺は体力頑健であり、意志はそこそこ強固でもある。孤児ではないが、守るべきものが多いわけでもない。けれどどうにもこうにも弱い部分があるのだ。その泣き所は自分自身でも「ココ!」とはっきりと意識はできないけれど、その泣き所を守り固めようとしている自分がいる。どうにか無敵になろうとしている自分がいる。ときどき感じる、張り子の虎の中に本当の虎を育てているような心持ち。「おいっ、生きてるか?」そんなとき、心の深淵から聞こえる誰かの声。「…まぁ、死んじゃあいねーわな」いつもそう答える。今日もそう答える。

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