「増床」ではなく「2店舗」営業という選択肢の可能性。(しかも直線距離600mの場所に!)

ネコワーキングをはじめとして各所のコワーキングスペースに関わってきた 広瀬 眞之介 (Shinnosuke Hirose)さんの重厚な記事のあとで気圧されております。コワーキング運営三年生の神奈川県藤沢市にありますNEKTON FUJISAWAの三浦悠介です。二店舗目を作ったので、そのあたりの話をします。あらためまして、みなさんよろしくお願いいたします。

コワーキングスペースNEKTONのオーナー三浦です。この記事はコワーキングスペース運営者限定アドベントカレンダー Advent Calendar 2017(https://adventar.org/calendars/2565)のために執筆いたしました。

 2015年6月にコワーキングスペースNEKTON FUJISAWAをオープンしてから、早2年半が経ちました。

▲NEKTON FUJISAWA(1号店)の写真です。木を基調にしたカフェを意識した空間になっています。

 弊所はコワーキングスペースにシェアキッチンとヨガとかで使えるスタジオをくっつけて(スタジオはビルオーナーチェンジによる事情があり現在は閉鎖)、週一の親子イベントも実施する(2年半毎週水曜実施中)という、カナリごった煮…というか、はたから見ればカオスにもほどがあるコワーキングスペースのスペースデザインをし、運営を始めたのですが、ごった煮にした理由としては神奈川県藤沢市という立地でコワーキングスペース一本でペイするようになるまでに時間がかかるだろうと予測したからでした。

▲コワーキングとの共存が難しい子どもイベントを実施(継続中)

 その予測はとりあえず的中して、コワーキングスペース単体のユーザーを取り込んだかな、という実感が得られるまでに1年半ほどかかったイメージがあり、それまでのあいだに不足した収益はキッチンを利用して週一のお店を出したい方への場所貸しでつなぎ、イベントなども密に実施して告知に力を尽くしました。そのシェアキッチンの収益もあり、初月から現在まで自分の給料を除く必要経費分は稼ぐことができております。

▲キッチンの料理での誘引。ミニ四駆イベント、ご当地アイドルのコンセプトカフェ、靴磨きイベントなど

 余談ですが、シェアキッチンは週一の出店で2万円の値段設定をしましたが出店者がペイするかどうか五分五分という絶妙の値段設定で、実際のお店を出店する前の「実験」や「チャレンジ」や「顧客開拓」という意味合いで赤字覚悟で出店するか、よほど料理に魅力があり短期間で常連を獲得するか、もともとフォロワーをたくさん持っているか、のどれかではないと収益と出店者のモチべーションが続かないということもわかりました。

 弊社は大元の事業で地域情報誌の発行業を柱とした広告宣伝企画会社を運営しており、そちらの情報誌で延々とシェアキッチンの利用者募集をかけていたおかげで、キッチンの方が抜けても新たな方が見つかるという状況を作ることができていますが、そういったバックボーンがない場合は相応の飲食志望者へのチャネル(調理師専門学校とか)を持つか、広報への仕掛けがあるかでないとキツくなるフェーズがあると思います。

 こう書くと「だったらいっそ調理などできるスタッフを雇った方が早いのでは?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。飲食とコワーキングの共存は、ニュー新橋ビルのCONCENTさんの例などもあり、シンプルにやれば話は早いように思えるのですが、ひとつ問題として一人の方が作る料理を毎日食べるのは飽きがくる、という現実があります。また、飲食店として営業をすると持ち込みをお断りせざるを得なくなります。

 といったわけで都内ど真ん中にあるわけではない、藤沢駅前のコワーキングスペースという常連さんを積み上げることが重要な、立地的なアドバンテージの薄い弊所のような場所だと、日替わりキッチンという仕組みのほうが合理的で成功の可能性が高いと踏んでトライし、大成功!…とはいかず現在まだ挑戦中といったところです。

 余談が長くなりました。

 今回のテーマタイトルは『「増床」ではなく「2店舗」営業という選択肢の可能性。(しかも直線距離600mの場所に!)』とさせていただきました。掲題のとおり、弊社は今年9月に最初の店から2年ちょっとで2店舗目をオープンしました。予備知識として2年半前にオープンした1店舗目「NEKTON FUJISAWA」の情報をお伝えしておきますと、JR東海道線、小田急江ノ島線、江ノ島電鉄が乗り入れる藤沢駅前、駅近徒歩3分の立地。キッチン・トイレを室内に取り込んだ状態で52平米という広さで、そこにカウンター10席、アイランドテーブルAが8席、同Bが6席、同CD連結で8席にカウンター3席と、計35席を設けています。

 きっと「52平米? 狭ぁ!」と印象を持たれたコワーキングスペースオーナーの方が多いかと思います。この平米数でこの席数を実現しているのは正直に申し上げると「すべてがちょっとずつ窮屈」という状況を作っているから実現しています。設計士(木津潤平建築設計事務所)さんの計算と、 施工会社(清田工務店)の現場判断と、三浦の什器チョイスで生まれた奇跡のバランスで、意図したわけではないのですがこの平米数でこの席数は、結果的にはかなり効率の良いスペース運営ができている感があります。

 対して、今年9月にオープンした2店舗目の「NEKTON KITAGUCHI」は、藤沢駅前、駅やや近徒歩6分の立地。58平米。この中にカウンター席10席と、アイランドテーブルABCがそれぞれ5席ずつ。個室会議室5席と、スタンディングカウンター4席分の計34席とトイレを内包しています。1号店のようなキッチンはなし。その代わり持ち込み自由。水とお湯とセルフサービスのお茶っ葉などのフリードリンクのみ完備の、割とストイックな場所です。


 地図で見ていただけましたらわかる、この距離感です。

 事前に相談したうちの何名かには「そんな近くじゃ顧客を食い合って意味ないだろ!?」みたいに言われましたが、藤沢駅は地理的にメチャメチャ南北の行き来がしづらいという状況があり、直線距離が近くても南北に分かれていれば勝算があるという自信がありました。また、NEKTON FUJISAWAを2年運営して蓄積したお客様からの要望、曰く『個室が欲しい』,『固定席が欲しい』,『立って作業できる席が欲しい』,『守秘義務のある仕事をしているのでラップトップが自分以外から死角になる席を確保したい』などに応える場所にしようという意図がありました。ただ、その広さは58平米。「せっかく2拠点目作るならもっと広いところの方が…」と思われるのは至極当然なのですが、ここにはビルオーナーさんからのオファーがあって動いたプロジェクトであり、物件的な条件が良かった。そして、このタイミングでうちが手を挙げなければ他社が参入する可能性があった、というシンプルな理由がありました。

 しかし、それを後押しする意味で、この2拠点はアリと考えた理由やメリットがいくつかありましたのでシェアします。ここからが本題です。

 理由のひとつが、賃料。大きな事務所スペースは空中階であってもそれなりな固定費がかかります。ところが、この60平米足らずの空中階事務所スペースは結構穴場で、値段交渉がしやすい。1号店であるNEKTON FUJISAWAはビルオーナーが知人だったということもありましたが、しばし借り手が居着いていなかったということを根拠に相場の70%ほどの賃料にしてもらいました。飲食不可のビルなど、さまざまな制約があればなおさら交渉しやすいです。NEKTON1号店と2号店の広さを足すと110㎡ほどなのですが、参考までに、藤沢駅前で単体で110㎡ほどの広さの物件と比べると、ウチの2店舗合算した賃料の方が10万円以上も安い!

 この賃料だけでまず条件によってはアリと思えました。

 とはいえ、二店舗を運営するとなると電気代をはじめとした固定費・人件費・その他運営コストが2倍になります。そのことを考えたら、セオリーとしては増床が正しい選択肢です。少なくとも受付機能を一箇所に集約して、人件費をおさえて場所を同一ビル内に借りるほうが良い。楽だし、合理的。それは三浦としてもまったく正しいと思っていて、セオリー通りのド正解なのですが、二店舗運営もアリだなと思ったのは、最後の理由によってです。

 その最後の理由というのが、思ったよりもちょっとした距離や店のコンセプトの違いで足を運ばない人がいる、ということに気づいたことでした。2拠点営業を始めてみて、最初のお客様は1号店には来店されたことのないお客様でした。東海道線を挟んで南と北。直線距離にして600m足らずの距離感ですが、これまでコワーキングスペースに興味はあったけど南口には食指が伸びなかったとおっしゃいました。

 その後も来店するのは、過去にNEKTON南口店に来たことはあるけど居づらくて敬遠されていた方なども含めて、これまで南口店には来店されていなかった方々ばかり。

 この狭い距離感ですが、「南のNEKTONの住人」と「北のNEKTONの住人」という二種類の顧客の開拓に成功しつつあると感じて居ます。

 ただその一因として単純な立地条件だけではなく、1店舗めの南口店に対して2店舗目の北口店をまったく真逆の要素を持った店としてデザインしたということがあります。具体的には、交流要素をメインに据えた南口に対し、北口は集中要素をメインコンセプトに据えました。集中か交流か、理系か文系か、秩序か混沌か、整然か雑然か、斉一か雑多か、寒色か暖色か、男性的か女性的か、静的か動的か、論理的か感情的か、スペシャリストかゼネラリストかそんなキーワードを拾い上げて、コンセプトとして意識的に対比を作りました。

▲未来オフィス的なコンセプトの2号店。あえて木は使わず、石とガラスと鉄をキーマテリアルにしました。

 当然の話ですが、2店舗あると道ゆく人に看板が見られて知られる可能性も二倍になります。「月額会員になったら2店舗を自由に使い放題ですよ」というアナウンスで月額会員が劇的に伸び始めました。同時に、「KITAGUCHIでスペースの提供が担保できるので一号店は貸切営業を始めます」とアナウンスし、実際に需要を取り込みはじめました。会員のメリットをつぶさず片方の店を貸し切り営業できるようになると、気兼ねなく貸切営業を提案・受注できて月に2~3回ボーナスのような売り上げがあります。またそれぞれの立地に近い商業施設や行政施設との連携で思いがけない利用使途が発生するなど(NEKTON KITAGUCHIは年金事務所が近く、社労士さんの相談や補助金セミナーなどの実施を調整中)、想定していたメリットも想定外のメリットも多くありました。

 とはいえ常に二倍かかり続ける人件費の削減が今後の課題と考え、無人営業やビデオ通話を使った遠隔店番などにチャレンジをしていくつもりです。

 以上、書き連ねてきましたが、弊社も二店舗目をオープンしてからまだ3ヶ月です。今後も「駅近南北2拠点」というトリッキーなトライをさまざまな観点で実証していきますので、フェイスブックページの「いいね!」などしていただいて暖かく見守っていただけましたら幸いです。ご清覧ありがとうございました。

 明日は、Contentzまたは、コワーキングスナックContentz(めっちゃ行きたい!)の宮脇淳さんです!

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