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無敵の人

ressentiment

(地域情報誌フジマニ 2019年7月 vol.145掲載の編集長コラムからの転載です)

ミドルクラスなんて過去のものさ。リッチかプアーしか生き残らない。ミドルクラスはリッチな奴らのために働き、税金を払っている。年々彼らの賃金は高くなって、結局のところ、プアーな奴らを助けるんだ(ジェリー・リスポリオ/雑誌Free&Easyより抜粋)。

まずはアメリカの話。
移民が作りあげた国が移民を拒み、新たな移民は壁の前で列を作る。どちらが良いとも悪いとも言えない。キレイゴトだけで外野が批評していいレベルを超えた事態になっている。

次に日本の話。

『自分のように人間関係も社会的地位もなく、失うものが何もないから罪を犯すことに心理的抵抗のない人間を「無敵の人」とネットスラングでは表現します(「黒子のバスケ」脅迫事件の被告人意見陳述全文より抜粋)。』

無敵の人、と揶揄する言葉がひとり歩く。黒子のバスケ脅迫事件の渡邊博史が顕在化させた言葉はこの国の暗部を照らすフラッシュライトのようだ。この国に住まう日本人には実際に圧倒的な格差があることを、そして、その格差は容易な努力では埋まらないことを示してしまった。

一度、難しい場所に立ってしまったら、ただ日々をこなすだけでは報われることのない世界になっているなと感じる。給与所得者としても、経営者としても、アイディアと飛び道具がないと事態を打開できない。そこに必要なのは愚直さよりも、ある種のずる賢さなのではないか。

時代は変わった。けれど、日々は続く。
昨日までの黒が急に白になることはないけれど、いつかはきっと良くなる。そう思って努力できる時代であれば良いと思う。けれどその努力の方向は、これから目まぐるしく変わるだろう。お手本もなければ正解もない。それはとても自由で、柔らかくて、残酷な世界だと思う。

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